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香港ラバーズ 男と女(1984/香港)

 先週、休み前最後の中国語教室で、《省港旗兵》のレビューを読んだ。
 日本では、『省港旗兵 九龍の獅子/クーロンズ・ソルジャー』の題名でビデオ化済。

 この映画を観ていなかったので、評論文を読んでいって初めて知った。
 …そうか、広東省から不法入国した犯罪者の話だったのか。80年代前半といえば、84年に中英条約によって香港の中国返還が決まった頃。それでもまだまだ大陸の人々にとって香港は夢をつかめる憧れの地であったのだ、ということを確認させてくれたのが、『香港ラバーズ 男と女』だった。

 マン・シーサン(チェリー)は広東省から不法入国で香港にやって来たが、ちょうど彼女がやって来た時期は、運悪く香港の法律が不法移民の取締りを強化した時だった。頼りにしていた叔母に拒まれ、彼女は仕方なく不法移民達が暮らす郊外のバラック小屋に身を寄せる。仕事にもありつけず、日中は無気力に過ごし、夜は同居する男たちに抱かれていた。
 タイ華僑のコン・ユンサン(アレックス・マン)はギャンブルで日々の生活を立てている。不法移民の経営する賭場でイカサマがばれ、逃げる途中で入浴中のシーサンに匿われる。数日後、不法移民取締り中の警官から質問を受けたシーサンはコンに助けられる。二人はお互いを意識しあうようになる。しかし、シーサンに香港人の占い師クワイ(関海山)との結婚話が持ち上がり、二人は別れることになる。
 クワイと結婚したことで、香港の居住権を取れると信じたシーサン。この結婚は子供を作るための結婚で、二人の間に愛はなかった。しかし、自分の身体と引き換えに、豊かな生活が保障されることになり、しばしの間シーサンは満ち足りた生活を送ることとなり、無事に妊娠もした。
 しかし、クワイに連れて行かれて観に行ったキックボクシングの試合で、シーサンとコンは再会してしまった。シーサンと別れたコンは、飛び入り参加した賭けボクシングで優勝したことがきっかけで、兄貴分のキョン(ロー・リエ)をコーチにつけてプロのキックボクサーとなっていたのだ。シーサンとコンの間に恋の炎が燃え上がる。香港チャンプとなったコンは、環太平洋チャンプになった暁にはアメリカへの移住をシーサンに約束し、彼女もまた子供を産んだ後はクワイと別れて一緒になることを約束したのだが、彼らの許されぬ愛の果てに待ち受けていたのは悲劇だった…。

 星野博美さんの名著『転がる香港に苔は生えない』では、煌びやかな香港の裏でひっそりと生きた、大陸からの不法移民たちの姿も綴られている。それを読んだ時は、自分が香港の一面しか見ていなかったことを知って愕然としたのだが、こういう事実を知った後でこの映画を観ても充分ショッキングであり、また切ない。同じ大陸からの移民が主人公であっても、『ラヴソング』のような軽やかさはもちろんなく、夢を追ってやってきた香港で夢が潰えてしまう悲しみが映画全般を覆っている。これは先にも書いた通り、中国返還を予感させながら、明日がどうなるのかわからないという香港人のゆれる気持ちもまた反映されている映画でもあるんだろうな。

 あどけない少女のようなルックスに、妖艶な女性性を匂わせているようなチェリー。ギラギラとした野獣のようなアレックスさん。洗練されていない泥臭さはあるけど、非常に説得力のある役柄を演じている。この時代はヌードも許されてたんだなぁ…。こういう思い切った演技がなかなかできなくなってきているのは、香港も日本も一緒ではあるか。関海山さん演じる初老のクワイも、一言でいえばスケベジジイであるけど、決して悪役として存在するわけじゃなく、たとえ子供が目的であっても、シーサンには不自由させない程度の暮らしを与えてあげたわけだから、彼もまたかわいそうな人であるよね。
 台湾の金馬奨では最優秀脚本賞を受けているらしい。それも納得。

 ところで、ちょっと前の新聞で見たのだが、とあるアンケート調査によると6割の香港人が「自分は中国人だと思う」と答えているらしい。10年前とは違って大陸の方面を窺いながら映画を作っているような印象も受ける現在の香港を思うと、《省港旗兵》やこれのような社会的テーマをはらんだ映画というのも、もう作られないんだろうな…。

原題&英題:男與女(Hongkong,Hongkong)
監督&脚本:クリフォード・チョイ 製作:モナ・フォン 音楽:ヴァイオレット・ラム
出演:チェリー・チェン アレックス・マン クワン・ホイサン ロー・リエ

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