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王妃の紋章(2006/中国)

 問:キンキラキンこと『王妃の紋章』の内容を、10字以内で説明せよ。(100点)

 解答例:中国最悪の家族ゲンカ(10字)

…これ以外の適切な解答例を募集中。何かいい例があったら教えてください。

 今やすっかり中国が世界に誇る国際的大導演と化した張藝謀先生は、2002年の『英雄』の大ヒット以来すっかり大作づいている。間に日本との合作『単騎、千里を走る。』は挟んだものの、この路線をひた走っているのは説明するまでもない。
 そして、五輪を3ヵ月後に控えたこの春、何かと中国には風向きが悪い(長くなるから省略)この季節―というかなんで今頃まで公開が延びたんだ?―になってやっとやって来た、イーモウ式武侠映画3部作のしんがり、といってもいいキンキラキン、もとい『王妃の紋章』は、…なーんとなく「大丈夫かよイーモウ、というより中国よぉ」という感想を言うので精いっぱいのような映画であった。

 『夜宴』の時のように原作として露骨にはアピールされていないけど、この映画のモチーフになったのは、中国の近現代演劇の名作といわれる曹禺の代表作『雷雨』である。中国文学や文化を専門的にやっていれば、必ず取り上げられるくらいの名作であり、ワタシも学生時代に抄録を中国語で読んでいたことがある。中華民国初期、欲望と不貞と嫉妬にまみれ、近親憎悪に加えて近親相姦までが発覚し、やがて崩壊していくある富豪一家を巡る物語なのだが、抄録を読むだけで気が滅入り、ここまでドロドロならいつか東海テレビ製作のドロドロ昼ドラでネタにしてくれないかしら、そうすればきっと『真珠夫人』や『牡丹と薔薇』に負けず劣らず大ウケかもよ、なんてことも思ったくらいだ。
 だから、イーモウがこの戯曲をモチーフにして新作映画を作ると聞いたときには、やっぱり気が滅入るんだろうなーと覚悟していたわけである。…案の定、多少気は滅入った。でも、それはある程度の想定内だったので、決してガッカリしたわけではないので誤解なきように。それだけじゃなく、大陸での公開時は『夜宴』と前後したことで両作品が比べられたりしたのだが、出来としては圧倒的にこっちの方が上だったよな。やっぱり、こういう“情念”を描き出せば、イーモウに勝つ中国人監督はいない。 日本人的には『初恋のきた道』のウケがかなりいいので、彼にはどーもそっちの路線に戻ってほしいと思う人もいることはいるんだろうけど(それはほぼ日で連載された件の映画の対談連載を読んでそう感じた次第)、個人的にはイーモウの本質は“情念”であると感じるので、製作バジェットの大小にもかかわらず、こういう激しさを見せてくれると、頭を抱えつつもなぜか安心する。もっとも『初恋』にも激しい情念を感じさせられないというわけじゃないんだが、それ以前にツーイーへのらぶらぶ邪念が…(以下殴られそうなので略)。
 しかし頭を抱えながら安心する映画っていったい何なんだよ!(苦笑)

 確かにね、物語としては非常に毒々しい。ほとんどすべてが黄金で覆われた五代十国時代の後唐の王宮。絶対君主として君臨する国王(ユンファ)と、なぜか彼に殺されかかっている後妻の王妃(コン・リー)、王妃と血のつながらない第1王子祥(リウ・イエ)との不倫、その祥王子は母親に隠れて王宮医の娘(李曼)と恋愛をしている。いまさらドロドロといわなくても、このシチュエーションだけでもうお腹いっぱい。
 ところで、なぜこの一族がいがみ合っているのか理由がハッキリしないという批評がある。いやー、それは簡単じゃないすか?国王は隣国の梁国(だったっけ)から王妃を迎えたけど、もともと梁国は敵国だから、政略結婚して王妃を殺し、完全に隣国を配下に治めたいから、じゃないの?違ってたらスマン。あとは、国でも家でもトップに立つ国王に対して、祥王子はその手から離れたいと願っており、母親孝行の第2王子杰(ジェイ)は窮地に立たされた母親を救いたいということだけを願い、遠ざけられながらもその様子を見ていた第3王子成(チン・ジュンジエ)はみるみる家族不振に陥っていって、重陽節に国をも巻き込んだあのような修羅場が繰り広げられたのである、とワタシは読み取った次第。

 すべてが毒々しくてドロドロしている中、やっぱりジェイの存在感は清涼剤のようでしたねー。とはいっても修羅場ではキンキラキンで血にまみれているので、見てくれは全く清々しくないんだが(苦笑)。中華圏最大のポップスターにして今時の若者であるジェイは、今時の若者にしては親孝行なので個人的にも高感度が高いといっても過言ではないんだが、まさかそのパーソナリティがこのドロドロ映画で活きるとは!“俳優がもともと持つ特性をそのまま役柄に反映させる”のは王家衛の専売特許ではないのか、というよりも、血まみれでいてもどこかイノセント、という役どころがジェイにしか出来ないからというのが正直なところなのか。白い菊マフリャーをなびかせて突撃するクライマックスの場面はホントに彼の独壇場だったしね。
 コン・リー王妃はいうまでもなく当たり役でせう。『夜宴』のガードルード=ツーイー、確実に霞みます。リウイエくんも最近この手の報われない役どころが当たり役になってはきたけど、…おーい、こーゆー役どころだけじゃ淋しいよー(大泣)。
 そして、ハリウッドから貫禄を携えて帰還したユンファ。
 怖い。この怖さは『色、戒』の時のトニーに通じる怖さだ。時々いつもの笑顔が見え隠れするので(あと、瞳がやや銀灰色に見えたときがあったんだが、元からあんな色だっけ?)、ものすごい凄みとかとにかくどす黒いというところまでは完全にはたどり着いていないのだが、今までのユンファのイメージを木っ端微塵にしてくれた。二挺拳銃や決して上手くないカンフーばかりが求められたハリウッドでのステロタイプを完全に振り切った故の到達点なんだろうか。まだまだ現役だと思ったのも確か。亀仙人、どーなることやら。

 スタッフ方面にもコメントを。
 前2作のワダエミさんから代わって、今回の衣装は香港で御馴染のハイ・チョンマン。エミさんの衣装が動を重視しながら静を感じさせる作りとすれば、チョンマンさんのそれは静を重視した出来といったところか。しかしあの女性陣の“寄せてあげる”ドレス…。某胸の大きな方(それをまだ言うか)じゃなくても、着る人を選ぶ服だよな。もっともあれなら多少胸が小さくても見てくれは悪くないんじゃないか、なんてセクハラ意見をまたしてもすみません。
 『十面埋伏』以来のイーモウ作品登板となる、音楽の梅林茂さん。アジア映画のみならず最近ではハリウッドや欧州映画のサントラを手がけているとのことで、すっかり日本が世界に誇る音楽家になってしまいましたねー。パンフには珍しくインタビューが掲載されていて、中華圏での音作りについてじっくりと読ませていただきました。しかし、『花様年華』や『ブルベリ』でも使用された『夢二のテーマ』が、海外の人々に南米の音楽家の作品と思われていたっていう裏話にはやや苦笑。今回はあえてコーラスを多用したそうで、それもあってタン・ドゥンっぽいといわれるのがわかったわ。

 しかし、なんでこの映画は重陽節にあわせて秋に公開されなかったのだろうか…。その方が雰囲気も出たような気がするし、いま公開されることで、中国を巡るネガティブイメージに短絡的に結びつけられてしまうのではないだろうか、と最初は心配した。しかし、実物を見ると、この映画はかの国へのある意味の暗喩がこめられているんじゃないだろうか、と思った。結構露骨に出てるのだけど、よくパスしたなーと思った場面もあったし、いまこの時期だからこそ、それが皮肉に感じるのかな、と思った次第。具体的にはなんだか言わないけどね。

 ラストシーンに訪れる一瞬の沈黙の後、ゆるやかに流れたジェイの『菊花台』。確かに、この物語のラストには挽歌のようなこの曲しかない。そして、初めてジェイの曲を劇場で聴けたことで、ドロドロな思いがすっかり洗い流されたのであった。

原題(英題):満城盡帯黄金甲(Curse of the golden flower)
製作:ビル・コン&チャン・ウェイピン 監督&脚本:チャン・イーモウ 脚本:ウー・ナン&ビエン・ジーホン 撮影:チャオ・シャオティン 音楽:梅林 茂 衣装:ハイ・チョンマン 美術:フオ・ティンシャオ
出演:チョウ・ユンファ コン・リー ジェイ・チョウ リウ・イエ リー・マン チン・ジュンジエ

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コメント

「家庭内大流血黄金活劇」(笑)

 with 「忍者」「菊」「半乳」 ←お好きなのをどーぞ(汗)


行くつもりだったのに地元では平日は6時の回が最終なので
(社会人をなめてんのか~!)行けるかどうか怪しくなってきました。

とりあえずジェイのPVを見て先に和んでおきます。

そーいえば、今回は
祝・ジェイの曲 完全上映!!!なのかな?(はあと)

投稿: grace | 2008.04.15 22:44

おお、ちょうど10字ですね。
ちなみに「忍者と菊と半乳の乱舞」でも10字です(爆)。

1週目はレイトがついたのでかろうじて観られましたが、この入りだと多分…と思っていたら案の定来週からレイトなしでした(苦笑)。ああ、厳しい。
あのエンディングを聴くと、ジェイの『菊花台』と『黄金甲』のPVがますます観たくなってしまいます。TVCMで『黄金甲』を流してくれればいいのに(見かけてないからわかりません)。

投稿: もとはし | 2008.04.16 22:44

ドロドロキンキラ半乳(10文字)

やっぱり半乳ははずせません(笑)。
私もここまで血みどろに憎み合う理由がわからなかったのですが、もとはしさんのを読んで、あっさりわかりました(苦笑)。

ユンファもね。最近いいですね!すごく怖く演じてるだけに、ときどきちらっと見える笑顔にクラっときました(なんのこっちゃ)。

で、記事が違いますが、ユンファとオーリーのフレンチ・ノアールに
ジョニー・トーですとっっ!!!
た、たのしみです。

投稿: tomozo | 2008.04.25 11:15

半乳半乳半乳半乳半乳。ってこれでも10字か(爆)
○ょ○ゅうは受け入れられないけど、これはオッケイな自分もどうかと思うー。ま、それはおいといて。

近親憎悪って古代中国だとわりとありそうな話ですからねー。政略結婚ならなおさらって感じもします。

ユンファはこういう憎まれ役ってどうなんだろ?と最初思ったんですが、思った以上に憎まれ役でかえって新鮮でしたよ。
久々にジョニーさんとコンビを組むのも楽しみです。

投稿: もとはし | 2008.04.26 00:52

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受信: 2008.04.25 10:59

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