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世界(2004/中国・日本・フランス)

世界(2004/中国・日本・フランス)
 というわけで、みちのくジャ・ジャンクー祭り第1弾(笑)。
でも前振りはいきなり映画から遠いです。先に謝ります、ごめんなさい。

 この年始、元旦から実業団駅伝と箱根駅伝を観ていた。もちろん中国系選手なんて出ていないんだが、日本人選手とエチオピアやケニアからやって来たガイジンランナーたち、その両方の素晴らしい走りに目を奪われていた。そんな中、いつだかのオリンピックか世界陸上にて、エチオピアのワイナイナ(だったと思った)が男子マラソンで優勝した時、彼は日本の実業団で走っていたことから、日本への感謝を寄せていたというのをどっかで目にしたことを思い出した。そこからワタシは「そうか!アフリカンランナーたちには、箱根や群馬の駅伝などで鍛えられた人たちがいるんだ!もし北京五輪やそれ以降の男子マラソンで日本育ちのアフリカ人選手が優勝したら、それは素直に喜んでいいことなんだ!」というある意味極端な結論を導き出した。この記事をご覧になっている諸先輩方、どうかそんなワタシを笑ってくれ。はははははは(と自分で笑う)

 ふりかえって、映画の世界でその論法を当てはめる。
『長江哀歌』で一昨年のヴェネチア金獅子賞を受賞したジャ・ジャンクー。彼はもともとインディペンデント映画の出身で、中国政府に許可を得ずに作品を海外の映画祭に出品していたことから、初期作品が大陸で上映されなかった。しかし、そんな彼の才能に着目してサポートしたのが、フランスの映画人とあのバカ監督(誰だかはもう言いませんが、これでも彼に対する敬称です)の所属事務所オフィス北野。松竹で『フラワーズ・オブ・シャンハイ』をプロデュースし、退社後は東京フィルメックスのプログラムディレクター等を務めてきた市山尚三氏(今はオフィス北野所属なのかな?)と森社長が製作に名を連ね、幾作品も手がけて今に至るようだ(『長江』では製作に関わっていないけど、スペシャルサンクスで市山氏の名前が挙がっていた)。いうなれば彼も日本に育てられたといえるから、ジャンクーのことを素直に自慢してもいいかもしれない…ってこれまた極論?それとも暴論?
 そんなことはさておき『世界』である。

 北京郊外にあるアミューズメントパーク「世界公園」。「北京を出ないで世界を見よう」というコピーを掲げたこの公園には、世界の名所旧跡ランドマークが全て10分の1スケールで作られている。そこで働く26歳の小桃(趙涛)は各国の民族衣装をまとって華麗に踊るダンサーだ。同郷出身の警備主任太生(チェン・タイション)とは恋人同士だが、どうも身体の関係に進むのが疎ましい。そんな彼らの周りには、ダンサー同士のカップルであるニュウとウェイ、ロシア人ダンサーのアンナ、太生の幼馴染のサンライ(王宏偉)と二姑娘などがいるが、だれもがさまざまな悩みや痛みを抱えている。愛しているのにセックスを拒まれる太生は怪しげな仕事をしている先輩ソンからの仕事依頼で、借金を踏み倒した男の姐チュンを訪ねるが、一目で彼女のとりこになってしまう…。

 ファーストシーンで鮮やかな緑のサリーに身を包み、私服では地味なカジュアルスタイルにブーツやカラフルなマフラーでアクセントをつけて着こなす小桃は見事なまでに今時の20代中国女子。彼女の抱える悩みも非常に今時らしい悩み。太原という地方都市から脱出し、華やかな仕事に就き、ハンサムな恋人もいるのにどこか満たされないという、どこの男女も抱えているありふれた悩みである。それが太原より広い北京の街にある箱庭のような公園で展開されるので、広い都会に身を置いていても心が閉じ込められて身動きできない閉塞感を出しているようだ。また、カラフルで人工的な公園内の風景と対照的するかのように、外の風景は一部(小桃が中年男に口説かれるカラオケバーなど)を除いて重々しくて暗い。それがまた閉塞感を強調している。
 「世界公園」で働く小桃以外の女性たちは意外にも前向きだ。といっても恋人との結婚を決めたり、なんとかいい役職を得るために重役の愛人になったりという程度であるが、今のままの自分に満足しない、もっとよい生き方をしたいということを考えているようだ。だけど、小桃は今の自分を変えたいとも思わず、流されるままに日々を過ごしている。こういう部分は全世界の若者にとって普遍的なことであり、リアルに感じるのだろう。
 そんな小桃が自分の世界を変えようと思ったのが、太生との結婚を決意したことなのであるが、それは些細なことから思いもかけぬ結末を引き起こす。別れる、別れないのいざこざが命に関わる重大事故を引き起こしたわけであるが、なんとか一命を取り留めた(と思う)二人はこれでいったん古い自分を殺してしまい、最後の小桃の「これからが新しい始まりなのよ」が示すような、新しい世界への出発を迎えたのだろう。
 このように、この映画に用いられる「世界」にはさまざまな意味がある。“世界”公園であったり、それぞれの心情を表す言葉であったり。それを踏まえた上でのこの題名なのだろう。

 ヒロインの趙涛は、ファーストシーンで一瞬『長江』のあの悲しそうな沈紅と同一人物には見えなかったのだが、素顔は相変わらず悲しそう。30過ぎ既婚者の沈紅と20代独身青春真っ盛りの小桃の演じ分けはさすが。多分、まだ若いんだよね。30代になったばかりか?太生を演じるチェン・タイシェン(漢字が出ません)はジャンクー映画の登場人物にしてはハンサムだなーと思ったら、『思い出の夏』で助監督を演じたプロの俳優さんだとか。太生の幼馴染で、いかにも肉体労働者な雰囲気のサンライを演じたのが、趙涛と共にジャンクー映画常連の王宏偉だったのだが、メガネじゃないので(しかもヒゲ面)誰だかわかりませんでした。そして「サンミン!」と声がかかれば必ず画面に現れるのが、韓三明だった。すまん三明、つい笑ってしまった。

 音楽は『好男好女』に出演していた台湾の林強。ずいぶん前にステージ活動をやめ、完全にミュージシャンになってしまったのね。ロックではなくアンビエントの方向に進んでいるけど、このところの中華電影のサントラがオーケストラ方面なのでかえって新鮮に聴こえる。
 また、この映画ののユーモア要因は小桃と太生がやりとりする携帯メールに彼らの心象を描き出したフラッシュアニメ。どことなくぎこちない映像が突然目の中に飛び込んでくるけど、これまた劇中のリアリティを和らげる効果はあげているんじゃないかな。

監督&脚本:ジャ・ジャンクー 製作総指揮:森 昌行 製作:吉田多喜男 市山尚三 撮影:ユー・リクウァイ 音楽:リン・チャン
出演:チャオ・タオ チェン・タイシュン ワン・ホンウェイ ハン・サンミン

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