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『楊貴妃になりたかった男たち』武田雅哉

 香港映画を観始めていた頃によく感じていた疑問がある。
「なんで香港映画のヒロインは男装が好きなのか?」
 例えば『笑傲江湖』の東方不敗(ガンダムシリーズの敵キャラに非ず、念のため)。例えば『金枝玉葉』2部作のウィン。例えば古惑仔シリーズ&『ポートランド・ストリート・ブルース』でサンドラ・ン姐さんが演じた十三妹。例えば『トワイライト・ランデブー』でチャーリー・ヤンが演じていた旅芸人の女の子。そして同じくチャーリーが『バタフライ・ラヴァーズ』で演じた、中国文学史上最も有名な男装の麗人、祝英台。
 その反対も然りである。男優たちの女装だって多い。例えば、『キング・オブ・ギャンブラー』でのトニーの乳母エリックとっつぁん、『kitchen/キッチン』でロー・カーインが印象的に演じた元男のエマ姐さん。まーこれは物語の進行上必然的なんだが、それ以外に「意味あんのか?」ってくらい女装しまくっていた男優たちがいたような気がする。例えば『暗戦』でのアンディ先生。ファムブランドもジャストサイズで着こなせそうなスタイルだけど、顔だけは…って迷の皆さんすんません(謝)。
 …えーと、でもトニーも似合わない女装やった経験あるんだよね。『鹿鼎記』あたりで。あと『月夜の願い』で家輝さん(有名なのは『大英雄』の女装)と胸に風船を入れたメイドに扮してカリーナんちに潜入したりしてたよね?

 なぜ、香港映画のヒロインは男装するのか?
 あと、なぜむくつけき野郎どもは女装したがるのか?
そんな疑問にヒントを与えてくれたの(か?)は、一見ヤバそうな(?)ネタを面白く分析して意外な拾い物になった『〈鬼子(グイヅ)〉たちの肖像』の武田雅哉先生だった。



 「中国人は、とにかく『四大』が大好きである。」という一文から始まり、その中国人が愛する「四大美女」とそれらの美女を男性が演じることでも御馴染、京劇の「四大名旦」がまず紹介される。その中にはもちろん、現在リヨン先生ご出演で撮影が進んでいる梅蘭芳も写真入りで紹介されている。彼の写真を見て、「ああ、やっぱりよんとは違うよなー…」って思ったもんなんだけど、それはまた別の話。
 そんな始まりから、京劇の名旦じゃないのに、なぜか女装に命をかけ、身も心も捧げてしまった多くの男たちと、男たちに恐れられながらも自己実現のために男装した女たち、中国語で言うところの“服妖(異装の怪物)”の生き方を、文学作品と『鬼子』でも紹介された近代中国版東スポこと『点石斎画報』等から分析(という名のツッコミ?)していく本である。
 男装の麗人といえば、先に挙げた祝英台とディズニーアニメのヒロインにもなった花木蘭。祝英台は文人として、花木蘭は武人として男装するという目的の違いがはっきりしている。これは後に続く流れを作っているといえるかな。
 でも面白いのはなんといっても女装する男性たちの話。その目的も様々で、なるほど!と膝を叩きたくなるものから、いっぺん頭はたいたる!と言いたくなるほどトホホーな理由もある。とにかく読んでて笑いが止まらない。纏足での歩き方を再現するために専用道具まで作ったなんて、涙ぐましいじゃないか(笑)。
 さらに面白いのは、女装・男装に飽き足らず?性転換した人々の記録まで残っていること。これは今でいうならばインターセクシュアルな人々にあたるのかなーと思うんだけど、その記録の中には明らかにフィクションか呪いにでもかかってんじゃないか?『らんま1/2』かよ、といいたくなるものも多少ある。もしかして高橋留美子さんって、中国のこのへんの記録をどっかで拾い読みしてらんまの基本設定を作ったんじゃ…ってことは絶対ないな。
 最終章近くには、近代以降の中国&香港での女装事情が紹介されている。ここでは香港映画で女装する男優たちはホントに軽い程度でしか紹介されてないけど(当然といえば当然?)、この本を通して読むと、彼らが女装する理由はなんとなくわかるような…気もしないか?これは今後も考えます(爆)。
 でも、周恩来が学生演劇で旦を演じていて、しかも結構見られる姿だったってーのは意外だわ。と、しばしその御姿に見入った次第アルよ。

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