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『ラスト、コーション 色・戒(いろ、いましめ)』張愛玲

 年末という季節ゆえに読むのに時間がかかるかなと思っていたんだけど、大きな仕事が片付いたので、集中的に一気読み。ちょっと苦労はしたけど、なんとか読み終わってよかったわー。というわけで、『いろ・いましめ』他、本邦初訳の張愛玲の世界を大いに堪能。

 まず、表題の『いろ・いましめ』(えー、それで通すの?)。
 昼下がりのけだるい(多分)空気の中に展開する、上海マダムたちの麻雀大会。そこで展開されるのはとめどないおしゃべりで、まだ若い麦夫人―ヒロインの佳芝もそれに加わっている。そこにやってくるのが、この大会のホステスである易太太のご主人、易先生。彼は…、

 ねずみ男に似てるんですか?

とマジ恋トニー迷がショック受けること確実な描写。
 おかしいなぁ、でもねずみ男に似てるなら出世顔というよりビンボくさいはずなんだが、とよく読んでみると、なんだねずみ男似じゃなくてねずみ顔なのか、そんなこと一言も書いてないのか、ああ紛らわしい。…って一人で早合点するなよ。

 物語はどんどん進んでいく。ページ数にして約50ページほどの短編のせいか、佳芝がまだ学生で、抗日組織のスパイとして上海に潜り込んだこと、抗日の闘士である裕民に思いを寄せていることをサラリと述べ、やがて彼女が易太太の知らぬところで易先生と不倫をしている(と見せかけて彼の命を狙っている)ことがわかる。彼らが寝ているということは匂わせられるけど、当然事細かなセックス描写はなし。当たり前やん。やがて、彼女が易先生を暗殺するチャンスを作り出すものの…!
 とまあ、わずかなページでこれだけの濃密度。これがいったいどうやって画面に描き出されるのか?佳芝の情念は、彼女の策略がいかに愛に変わるのか、そしてセックスと社会情勢はどう関連付けられるのか?…なんかアンタ、セックスにばっかこだわってないか、オマエこそ「スケベェさん」じゃねーのかもとはしよってつっこまれそうだけど、ほら、戦時下の恋愛を描いた作品には愛と性を全面的に出したものも少なくないじゃないの、古くは『愛の嵐』だったり、最近なら『ブラックブック』もそうだろうし。だから、ついついそういうことを思ってしまうのよ、って説得力に欠ける理由ですみません。

 残りの作品の感想も。
『愛ゆえに』
 これは張愛玲が初めて手がけた映画の脚本をノベライズした短編だとか。その映画の題名は《不了情》。でも、中華圏映画の名作として知られている作品とは全く違うらしい。
 友人のつてを頼って、ある家の家庭教師となった主人公。その家には主人と娘しかおらず、病弱な夫人は田舎で静養中だという。家庭教師先での子供とのふれあいと、その父親との不倫。身分の高い家に入ったことで、主人公の父親は彼に金を無心するようになる。そして、病気により田舎で静養していた妻の帰還と、彼女の口から出た思いがけない真実…。
 うーん、メロドラマ。なんとなく東海テレビ製作のドロドロ昼ドラの原作にも向いていそう。張愛玲曰く、この小説は“通俗小説”を書くことに挑戦したとのことで、どうりでメロドラマな展開なわけなのね、と納得した次第。

『浮き草』
 30代独身女性が船旅に出る。目的地につく間、これまであったいろいろなことを回想する…。
共産党が実権を握った'40年代末は、これまで大陸で商売をしていた人々が共産主義の台頭を恐れて次々と脱出し、香港に滞在したり海外に行ったというが、この主人公もまさにその一人。しかも、外資系商社で働いていてこともあり、その頃の同僚には西洋人も多かった。
 西洋人と結婚した姉の友人の思い出話や、日本への船旅で知り合ったインド系イギリス人と日本人の夫婦など、他民族の人々とのエピソードで綴られたコスモポリタンテイストあふれる紀行文風の短編。いま横浜や神戸の中華街で暮らす人の中にも、55年くらい前にこうやって故郷を離れた中国人もいるんだろうな。中華民国時代の自由な雰囲気の中で築かれた上海人の気質も匂わせられる。これが一番面白かった。

『お久しぶり』
 とある街(特定されていないけど北京かな)に住む、ご近所同士の2組の家庭の話。他愛ないおしゃべりが延々と続き、特にこれといったオチもない。街の人々の姿を活写した短い物語という印象。

 こんな感じかな。どの作品もそれぞれ面白かった。

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