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『私の家は山の向こう テレサ・テン十年目の真実』有田芳生

 先の記事「読んでいない!スマン!」と叫んだのを恥に思い、早速文庫版を買ってきました、ハイ。

 有田芳生さんと言えば、オウム真理教や統一教会などのカルト団体批判で有名な方だけど、連日TVでオウム報道が展開されていた頃、ワイドショーに彼が出演すると、その番組で取り上げられたオウム以外の事件やゴシップにも必ず丁寧なコメントをつけられていたので、毎日殺人的なスケジュールに追われていてオウム以外のネタが追えなさそうなのに、どーでもいい芸能ネタにまでコメントできるってのはすごいよなぁなどと、変な感心をしたことがある。それもそのはずで、彼はカルト批判という専門(?)の他に、都はるみや宇崎竜童などの芸能人の半生を取材したノンフィクションも得意だったということを知って、なるほどーと思った次第。さらに昔から中華電影もよくご覧になっていたというそうだから、それならテレサについて調べるはずだよな(ってちょっと偉そうだな>すみません有田さん)。

私の家は山の向こう
有田 芳生著
文芸春秋 (2007.3)
通常24時間以内に発送します。

 単行本には表題になった歌「我的家在山的那一邊」と、有田さんが92年にテレサに行った単独インタビューでの彼女の肉声が収められたCDが付録についているとか。

 今思えば、香港映画の挿入歌でテレサの中国語曲を聴くことができたワタシのような中華趣味人間はラッキーなんじゃないだろうか。それがきっかけで、鄧麗君という歌手の、日本では「演歌(異論もあると思うけどあえてこう書く)」しか歌っていなかったために、演歌好き以外には多少の偏見を持たれた彼女の本当の姿を、一端だけでも知ることができたのだから。しかし、レスリーや梅姐が歌い、ユンファの映画や香港リメイク版『キッチン』で使われた『月亮代表我的心』や、『ラヴソング』の原題となった『甜蜜蜜』を聞いたその時に、テレサの生の曲が聴けなかったのはやはり悔しいと少し思う。 もう少し早く、このことに気づくべきだったよな…。

 レスリーが生まれる3年前、大陸から台湾に逃げてきた国民党軍人の長女として、テレサは生まれた。つまり彼女は外省人である。歌が好きな少女は13歳で台湾芸能界にデビューし、17歳で香港芸能界に進出、20歳でアジアのトップスターに躍り出る。やがて香港での彼女の活躍に目をつけた日本の芸能関係者が彼女を日本に呼んだものの、デビューはアイドル路線で失敗、結局演歌路線で売り出すことになってしまう。
 …まー、当時の日本アイドルの面々とテレサを比べると、確かになぁとは思うんだけど、だからなんで演歌なんだよ、というのがいまさらだけど正直なところか。そのおかげでワタシがテレサを知った当初のイメージは、なんでこんな情念の歌やら不倫の歌やらがいいんだろう?だから演歌はいやなんだ、という非常に子供っぽいものだった。あたり前だ、当時は子供だったから(爆。でもテレサ自身も『愛人』を歌うことになった時は「不倫の歌なんか歌いたくない」と反発したというくだりがあったので、そこはまぁ正常な感覚の持ち主なんだと安心)。それに当時の芸能界を考えれば、ねぇ。ともあれ、『空港』や『グッバイ、マイラヴ』を日本で歌っていた頃、香港では『甜蜜蜜』がヒットしていたことを知ると、なんだか悔しい気もするし(なぜ?)、この頃から香港や台湾で受けるものが日本でそのままウケるってことじゃなかったのね、と改めて思った次第。それは今でも変わんない傾向だもんね。実際、彼女に続いて台湾から日本に来たビビスーやインリンちゃんは、日本と台湾じゃやってることが全然違ったもんな。(でもインリンちゃんはパッツンパッツン衣裳着てグラビアとか格闘技とかやってる日本での活動の方が過激か?もともと彼女は台湾ではパフォーマンス系アーティストだって聞いたけど)
 ただ、意外だったのは、テレサの日本語曲があれだけ人気だったのにかかわらず、実際に日本で活動した期間はそんなに長くなかったということ。それはやはり、あくまでも台湾や香港での活動が彼女にとってメインだったからだろうか。
 そして、彼女の生まれ故郷、台湾の国際的に複雑な立ち位置が原因で、“偽造パスポート事件”が起こってしまい、彼女は台湾マスコミに非難されるところとなる。さらに彼女の運命は、台湾と大陸の微妙な関係、さらには文化大革命後に改革開放路線を推し進め始めた中国の政治的な動きにシンクロするようになる。テレサが再び日本でも歌うようになった頃、大陸では彼女の歌を収めた海賊版テープが次々と入ってきていた。激変する中国の、まだまだ社会主義でガチガチだった時代に、テレサの歌がすっと入り込んできたのである。その評判は瞬く間に人々に広がる。いまでこそ海賊版は厄介者扱いされてるけど、こういう効能もあったのだ。『時の流れに身をまかせ(さすがのワタシもこの曲は好きだ。もちろん中国語ヴァージョンも)』が大ヒットしたのもこの頃でありお、シンガポールにいた彼女を中国の新聞記者関鍵が彼女に電話インタビューを試みたのもこの頃。この件は中国と台湾の間で政治利用されることになり、テレサは大いに傷つく。が、台湾の戒厳令解除等を受け、テレサの歌を生で大陸の人々に聞いてもらおうというコンサートまで立ち上がることになったのだが、89年6月4日のあの事件が、またも彼女の運命に大きく影響を及ぼすのだった…。

 あまり書くとますます長くなりそうなのでいい加減にしておくけど、非常に内容の濃いこの本を読むと、『つぐない』や『愛人』ではなく、『月亮』や『甜蜜蜜』を聴いているだけじゃとても想像がつかなかったテレサの人生がそこにあり、いかに彼女が激動する20世紀後半の中華圏の歴史に翻弄され、なおかつ彼女がそれを感じさせずに「歌姫」として表舞台に立っていたのか、とてもわからなかったということがわかった。さらに、タイで急死した以降に日本でも流れた「スパイ説」がどんなもので、その真相や説の矛盾も丁寧に書かれていたのも、詳細を詳しく知らない者にとっては親切である。 

 中華趣味者のワタシは芸能&文化と政治を完全に分離して、中華芸能や文化のみに愛を注いでいるわけだが、時々芸能ネタでも政治や近代史が絡むとなんだかとんでもない非難がきてしまうのに困っている。はんちゅー傾向にある人なんてこの件でそれ見たことか的なことを言うのを聞いたことがあるし(芸能にも興味なさそうだもんね)、その傾向が顕著なのはちゅーかじゃないけどけんかんの皆さん。もともと冬のなんちゃらブームやW杯でのことがよく思えないであれこれネットを渉猟していったらたどり着いたのがそこで、それでも非常に政治的見地から芸能やスポーツを語ってしまっていいのかって言いたい(そういいつつも相変わらずかんりゅうは好きになれない)。
 香港明星や台湾明星も、普段から政治的発言には非常に気を遣っているだろう。はんちゅうはんにち発言はともかく、両岸問題となれば特に。テレサはあの天安門事件以降、積極的に政治的発言を行い、中国政府のあのやり方に抗議してきた。いくら政治に疎い人間としても、彼女の一連の発言の危うさはよくわかる。しかし、中国大陸からやってきて、生まれ育った台湾を始め、香港や日本、その他アジア各国でトップスターとなった彼女には、自分の歌を聴いてくれた両親の故郷の人々をこよなく愛していて、その人たちも国の立場を超えて自分の曲を愛してくれたので、なんとか架け橋になりたいと思ったいたのだろうか。しかし、彼女の前に立ちはだかった政治という壁はあまりにも厚かった、と捉えるのは間違いだろうか。

 なんだか取り留めのつかない感想になってしまったけど、つれづれと考えていたらこんなに長くなってしまったわ。
 しかし、ドラマではこの本のどこまでを扱うつもりなんだろうか。サイトのキャラクター相関図を見ていると、日本での活動と三度の恋愛に触れるだけで終わりそうな予感もするようなしないような(^_^;)。さすがに政治的なことは描けないのかな。
 ま、観たら感想は書きますのでね。

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