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『墨攻』酒見賢一

祝!『墨攻』金像奨最優秀編集賞受賞!と偶然なってしまったけど(苦笑)、週末日帰り旅行の車中で、やっと『墨攻』を読了。
面白いことに、この小説の題名の読みは「ぼくこう」で、映画とマンガは「ぼっこう」
ちなみに広東語では「パッコン」(笑)。

墨攻
墨攻
posted with 簡単リンクくん at 2007. 4.17
酒見 賢一著
新潮社 (1994.7)
通常24時間以内に発送します。

24時間以内発送可なら、表紙画像を出してほしい気がしますよ、bk1さん…。

さて、デビュー作の『後宮小説』(これもいずれ感想を書いてアップするか)に続き、中国史を土台に虚実が織り交ぜられた、酒見氏お得意の中華小説の第2作。この路線はその後も孔子とその弟子たちを取り上げた全13巻の大長編シリーズ『陋巷に在り』や、現在文芸誌に連載されている諸葛孔明が主人公の長編などで続けられているけど、実はワタシは『陋巷』を1巻で挫折した人間なので追いきれてません(泣)。『後宮』はものすごく好きだったのに、『墨攻』より先に『陋巷』を読んでしまったせいで、しばらく酒見作品から離れてしまったんですねー。もったいないなぁ。
中国の架空王朝「素乾」を舞台に、次期国王の后を決める後宮に飛び込んだ少女を描いた『後宮小説』では、舞台こそ架空でありながら、そこで繰り広げられるのは哲学と房中術(ってこの小説で知ったんだよねー)の授業だったり、素乾王朝と反乱軍の対立とその顛末が妙に中国史記的であったりと、細かいところで事実を入れつつ、とんでもない物語を軽妙に語っていて、その大胆さは大いに気に入っていたのである。しかし、この小説を原作に1990年に作られたアニメ『雲のように風のように』では、小説にあった大らかな官能性がすっぱりそぎ落とされてしまったのが残念だったわ。それは仕方のないことなのだが。
あー、いいかげん本題に戻らねば。

長編といっても、文庫本にしてわずか145ページで展開される物語は、映画と同じように墨者の革離が城邑の梁城に一人でやってきて、いかに趙国の2万(残念ながら10万ではない)の軍勢に対して城を守り抜いたことを描いているのだが、映画では(マンガでも?)描かれなかった、その戦いの果てにあるとんでもない顛末まで書き、さらに墨家の成立から滅亡、革離の生い立ちと彼の墨家における位置なども交えた(ほとんどは架空だろうけど)濃厚な内容になっている。
革離の性格も映画とはちょっと違っていて、アンディ先生が演じるだけあって墨家思想の清廉潔白さを絵にしたような映画の隔離とはさすがに違い、原作の彼は戦に対してかなり非情で、かつどこか胡散臭い?雰囲気がある。このままのキャラならアンディよりも秋生さんが演じると意外にハマるんじゃないかなって感じだ。
彼以外のキャラの立ち回りも微妙に違い、映画オリジナルの子団や逸悦にあたる人物はもちろんいないし、その分牛子張の出番が多めかな。梁王の梁渓はあまり出てこず(さらに敵方の巷淹中もかなり出番がない)、革離との交渉は専ら梁適が行っていたんだけど、映画と決定的に違うのが、梁適が革離に心酔せず、かえって反発していたのである。ちょっとビックリ。そして、この二人に決定的な溝を作らせたのが、映画では重要な位置を占める“兼愛”だったというのがなんとも皮肉で…。
終劇に悲劇が待ち受けるのは映画同様なんだけど、それでもあまりヘヴィではなく、むしろ軽く感じるのは、酒見さんの文体に重さを感じさせないからかなぁ。初期作品なので、読後感が『後宮』によく似た印象を持ったこともあるし。

たまたま未読だったので映画を観た後に読むことになったけど、これを映画の前に読んだら、また印象も変わったかな。
でもなによりも重要なのは映画の直接の原作であるマンガ版か。小説のエッセンスをどこまで取り入れて、どうアレンジしているかはもちろん気になるから、やっぱりどこかで一気読みする機会を作るかなー。

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