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墨攻(2006/中国・香港・韓国・日本)

ずいぶん前から言っていることだが、ワタシが中華電影に(個人的に)求めているのは、日本の原作&製作に香港の監督、ロケは中国でキャストは香港人主役の混成というアジアンミックスである。その中でもポイントは“日本の原作と製作”である。これまで香港映画だけに限れば、日本の原作を用いたものには『孔雀王』『シティーハンター』『南京の基督』『キッチン』『頭文字D』などがある。そのほとんどはマンガ原作であり、さらに多少なりとも日本の製作や日本人キャストも入ってはいるが、その出来は一部を除き「うむむむむー」と言いたくなるものだった。なんつーか、うまく説明できないんだけど、香港映画の欠点がもろに出ちゃうかなーって思ったものが多かったので(笑)。それは低予算だったり早撮りを強いられたりするうえでそうなってしまうのだろうと(でも最近は香港も製作にじっくり時間をかけるようになったよねぇ、逆に日本映画のほうが早撮りで劇場にかける作品が増えてきたような気がする)思って納得せざるを得なかった。

だけど、この『墨攻』はそれらの作品とはちょっと違う。原作小説こそ、あの日本ファンタジーノベル大賞の第1回大賞を受賞した酒見賢一氏が得意とする中華小説の代表作であるけど、その小説を基に少年マンガ出身の森秀樹氏によって15年前から4年間、青年マンガ誌に連載されたマンガが映画の原作であって(これを人に説明するのはけっこう大変)、しかも原作は知っていてもマンガ化されていたのは知らなかったって人がほとんどなんじゃないかってくらいマイナー(失礼)な存在だったので、マンガ化は知っていて雑誌でちょっとだけ読んだ記憶しかない自分ですら、このマンガの映画化を知った時は大いに驚いた次第である。言い換えれば、それだけジェイコブ・チャン監督がこのマンガに惚れこんでいたのだ、という熱意がよくわかるのである。ああ、夢は追い続けていれば、いつかは叶うものなのね…。

墨攻
墨攻
posted with 簡単リンクくん at 2007. 2. 6
山本 甲士著
小学館 (2007.1)
通常24時間以内に発送します。

↑今回はノベライズ版のリンクを作ってみた。

オンライン書店ビーケーワン:墨攻(ビッグコミックス) 
↑これはビッグコミックス版。

遥か昔、戦国時代の中国。“七雄”と呼ばれる大国のうち、趙と燕の境に位置する城邑の小国・梁城(住民四千人)は、燕に攻め込もうとする趙にとっては、まさに絶好の獲物であった。城邑の主・梁王(王志文)は諸子百家の一派にして、「非攻」の精神を掲げる墨家に救援を頼むが、使者は一向に到着しない。将軍・巷淹中(アン・ソンギ)率いる趙軍が今にも攻め入ろうとしている瞬間、梁城に墨者の革離(アンディ)と名乗る人物がやってきた。遠くまで飛ぶように細工した矢で敵の先鋭隊を驚かせた革離は、梁王と息子の梁適(チェ・シウォン)を説得し、兵に対する全権を任せられた彼は、弓隊の子団(ニッキー)を攻撃の統括に抜擢し、兵士から奴隷までを総動員して城の守りを固める。梁城から逃げ出した農民から革離の存在を知った巷淹中は、彼を自陣に招いてその才智を知る。
趙軍の総攻撃に、梁城は総力戦で応戦する。革離は趙軍の攻撃の裏を読み、硫黄や火責めなどのトラップを次々と繰り出す。その守りは見事に功を奏し、趙軍は一時退却するが、なおも密偵や刺客を放っては梁城に揺さぶりをかける。もちろん、革離は巧みにその罠を見抜き、日に日に彼の評判は高まっていく。梁王の忠臣の娘にして王直属の騎馬隊長を務める逸悦(ファン・ビンビン)は彼を慕って尽くそうとするが、革離は「施しはいらぬ」と固辞するのであった。
趙に斉の大群が攻め入り、趙軍の大半が撤兵したとの知らせが梁王に届いた。革離の評判を耳にするにつれて自らが彼にとって変わられるのではないかと疑心暗鬼になった梁王は、彼を謀反人として扱い、追放しようと試みる。そして子団や逸悦を謀反人として捕えたが、撤退したはずの巷淹中は未だに梁城を狙っていたのだ…。

原作小説を読んだことはなくても、墨家という一派が諸子百家にあったことは知っていた。…もちろん、名前だけであるが(これでも中国哲学は大学でやっている。専門のくせにいと情けなし>自分)名前だけしか知らないのも仕方がない。儒家と並ぶ一大勢力に成長しながらも、秦による初の統一とともに歴史から忽然と姿を消してしまった一派ということであるから。
ここで調べ始めると長くなるのでパンフレットにあった浅野裕一東北大学大学院教授の解説を参考にするけど、墨家は劇中にも登場した「非攻」「兼愛」の他、八つの主張を加えた「十論」を思想の柱にしていて、主人公の革離もその精神を守ったストイックな人物として描かれる。
この考えを眺めていて思ったのは、この十論が非常に普遍的であり、キリスト教や仏教などの宗教の考え方にも通じることである。「兼愛」は要するに「汝の隣人を愛せ」であるし、質素であること、勤労と節約に努めることなども、シンプルに生きる仏教の教えにどこか通じる。しかし、その考えをよく思わない人はもちろんいるわけで、とりわけ為政者(この場合は梁王)に評判が悪いのはよくわかる。それゆえに革離は梁王に疎まれるのだが、梁王は彼を支持した人々にもひどい仕打ちをする。正しいことで賞賛される者は、大いにやっかまれて潰される。そのような嫉妬や集団の不安定な心理もまた、現代社会にも通じる。そして「非攻」の精神を掲げながらも、戦いではいくら守り通しても自軍にも敵側にも死傷者が出てしまい、敵に恩義をかけても結局殺さねばならない。その矛盾も描かれているので、「非攻」の実現への難しさを思いながら、その理想へ思いを馳せたくなる。墨子の思想は、秦の時代にはあわなかったものとして結局は滅びてしまったものの、それは他の思想や宗教の考え方と通じるものがあり、見直すのにも充分値する。そんな普遍性を、現代にも通じるような考え抜かれた物語にのせて
映画化できたということは、非常に有意義なのではないだろうか。…ええ、もちろん映画的には突っ込みたいところはいっぱいあるんだけど、長くなるのでパス(いつか書くかもしれないけどね)

あとは技術的とかキャストなどに感想。
しかし、カメラが『男たちの大和』などを撮られたベテランの阪本さんだけあって、カメラワークがなんだか異常に安定していたなー(笑)。趙軍の攻撃シーン(エキストラは毎度御馴染人民解放軍の皆さんだそうだ)なんて、一瞬大河ドラマか、来月公開の日本映画『蒼き狼』じゃないのかと思ったし(爆)。
トン・ワイさんのアクションは適材適所的。『七剣』のように人がバッシバッシと飛んだりドンドコ跳ね回ったりしないので、非常に手堅いアクション演出ができたのではないのかしらん。もともと武侠映画にするつもりはなかったとのことだから、これが正統派ってことですし。…いや実は土曜日に『どろろ』を観ていたので、それと比べてチン・シウトンさんとトン・ワイさんの違いを改めて認識したってこともあるんだけど。
川井憲次さんの音楽は相変わらずスケールがでかい!今回はスキャットでおおたか静流さんも参加しているし、好きだわ。アジアンアクション大作といえばすっかり彼の音楽、という図式ができてしまったわねー(川井さん、去年はデスノ2部作もやっていたのか…。あと新作『精霊の守り人』もアジアンな香りのファンタジーアニメだ)
アンディは全員長髪のキャラクターの中で一人短髪だったが、ホントに原作どおりに光頭にするはずだったとは、ずいぶん覚悟を決めていたんだなー。だけどジェイコブさんに「短髪でいい」と言われたのは、やっぱりスターだから?と最初思ったんだけど、よく考えれば墨家の本部を出たときには実はスキンヘッドで、遠路はるばるやってきて髪が伸びてああなっていたっていう考え方もできるか(笑)。舞台が秦以前なのでもちろん『英雄』のような派手さがない衣装を身にまとっていた人たちの中でも一番ボロボロ、でもマフリャーは欠かせないというこだわりを見せるのはやっぱりスターゆえか(そんな分けない)。
アンさんは相変わらず渋いわー&ステキだわ。自分のスタンスはアンチ韓流でも、昔から彼は好きです(苦笑)。以前『MUSA』で北京語がわかる高麗の弓の老名手を演じていたので、彼が北京語を話すのには違和感はいくらかなかったけど、後から自分で吹き替えたとはいえ、やっぱり韓国人の話す北京語ってクセがあるなぁ…。
ニッキーは成長したねぇ…。彼と同世代なので兵役前の作品は小虎隊の歌もあわせて(笑)ほぼリアルタイムに観ていたんだけど、顔は基本的に変わらなくてもアイドル時代の甘さがすっかり抜けていてよかった。実は一緒に観た友人が「久々にニッキーを見たらニコに見えた」と言っていて、えっそう?と思っちゃったんだけど、ちょうど10歳下のニコも10年経ったら今のニッキーみたいになるのかな。
『北京ヴァイオリン』のあの先生と同じ俳優ということをすっかり忘れていた王志文さんは怪演。悪くて腹黒くて小人物で悪政の主、それでいてどこか哀れさもあって。しかし息子は顔がでかかったってーか長かったってーか…といったらいったい何人に殴られるだろうか。脇役も牛馬さんや久々の銭小豪、相変わらず顔が覚えられない(恥)サモハンの息子サミー・ハンなど、意外に豪華だった(といっても気付いたのはエンドクレジットで)のがわりと嬉しい。
で、問題はファン・ビンビンの逸悦なんだが…うーん、いくら映画オリジナルのヒロインとはいえ、あの役まわりではたしてよかったのか?せっかくの女性騎馬隊長なら“春秋戦国時代のオスカル”みたいなキャラクターでもよかったんじゃないか?でも、彼女がいたおかげで、この映画は見事に“アンディ映画”としてのジャンルになったんだし、それを意識したんだろうね、ジェイコブさん。
アンディ映画の定番って、以前もちょっと書いたけど「チンピラ・鼻血または流血・ロン毛」の3点セットだけど、それに加え「愛した女性はいつもラストで○○」って定番もある。革離のキャラは3点セットこそは満たさないけど、ストーリーを追えば後半の公式は見事に合致しちゃったもんなぁ…。ってこらこら!

英題:A Battle of wits
製作&脚本&監督:ジェイコブ・チャン 原作:森 秀樹(マンガ)&久保田千太郎(脚本)&酒見賢一(小説) 撮影:阪本善尚 アクション指導:トン・ワイ 音楽:川井憲次 編集:コー・チーリョン
出演:アンディ・ラウ アン・ソンギ ワン・チーウェン ファン・ビンビン ニッキー・ウー(ウー・チーロン) チェ・シウォン ウー・マ チン・シウホウ サミー・ハン

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