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《神経侠侶》(2005/香港)

もしかしたら気のせいなのかもしれないのだが、香港の街では日本よりも警官が街に出ている数が多いような気がする。
特にカーキ色の制服に身を包んだ警官を見かけることが圧倒的に多い。香港返還直後に行った時、彼らに2回ほど声をかけられたことがあり、広東語もろくに使えずうっかり北京語で反応してしまって思いっきり疑われたこともある(笑)。
『旺角黒夜』やその他さまざまな映画でも描かれたように、香港には街中の犯罪も多いので、街を警邏する警官の数も多いのかもしれないが、実際に街を歩く警官には、不思議なことに日本の警官ほど圧力感がない。むしろフレンドリーに見える。それだけ街に溶け込んでおり、街のあれこれを知りつくしているのだろう。
「映画の中の警官は銃弾を雨のように浴びて、生死の際に生きている。でも実際の警官は、毎日規律を守って地道にパトロールしている」という様子がオープニングに示されることで、普通の警官の生活を描くのねとすぐにわかるこの映画《神経侠侶》は、『忘れえぬ想い』の脚本家ジェームズ・ユエンが監督も手がけ、イー・トンシンがプロデュースに回った人情警察ドラマである。

クリスこと陳俊傑(イーソン)は湾仔署の警官になって7年目。着任当初の情熱も忘れ、たいした重大事件にもめぐり合わずに毎日毎日街のパトロールに明け暮れている。同僚のサム(サム)たちとともに参加する警察のサッカーチームで汗を流すことだけを慰めとして生きていた。
長年のパートナーだったリッチーが退職した次の日、クリスが得た新たなパートナーは田舎育ちの新人女性警官マンリーこと廖得男(ジョイ)。元気いっぱいで熱意に満ちあふれ、ついつい暴走しがちなマンリーのパワーに圧倒されてしまうクリス。
ある日、マンリーは道路を横断してきた男性を注意したところ、いきなり罵倒されて驚く。その男はセンこと王志成(ジャンユー)。香港大学の建築家を卒業し、コンベンションセンターの建築にも参加したという有能な建築家だったのだが、事業の失敗で借金取りに追われ、さらに妻子に去られて絶望のあまり自殺を図ろうとしたが、それにも失敗して心を病んでしまったと言う。借金はセンの姉レイチェルが完済したのだが、彼は未だに借金取りの元に通って金を返そうとしているらしい。
クリスと街を回ることで、湾仔の街のさまざまな姿を知っていくマンリー。猫レスキューをしたり、貧困のあまり粉ミルクを強奪しようとした男性(林雪)を救えなかったり、助けてくれたバイク警官のクー(中信)に一目惚れしたりと、いろいろな経験を積んでいく。一方クリスはバスに出没した露出狂を摘発した2人のティーンエイジャーと出会い、仲良くなる。さらにセンは広東の東莞から子供を置いて働きに来たマッサージ嬢フェイフェイと知り合い、ほのかな思いを寄せるようになる。そんな平和な日々を過ごす彼らだったが、湾仔には雨の夜になると女性をレイプしては惨殺する“レイニー・マーダー”と呼ばれる通り魔が出没するようになる。そして、ついに悲劇はクリスと仲良くなった少女のうちの一人に襲い掛かり、フェイフェイにも魔手を伸ばした…!

舞台となるのは買物天国の銅鑼湾とオフィス街の中環に挟まれた湾仔区。コンベンションセンターもこの地区に含まれる。ベイサイドはホテルが並び、その裏にはナイトクラブ街、さらに大きなヘネシーロードを渡ればお肉屋さんを始めとした小売店の市場がひしめき合っており、それほど大きくない地区なのにいろんなものがギュッと詰まっているという印象だ。思えば初めて香港に泊まったのがこの地区だった。街の作りが九龍とは違うので雰囲気も多少違うのだけど、地域ごとに住み分けができている面白さが楽しいと思ったものだった。おそらくあの地区で危険なのはナイトクラブ周辺だと思うが、さすがにへんな事件の現場に出くわしたことはない。
そんな地区だから、おそらく普段は平和なのかもしれない。その平和は、もちろん街のおまわりさんの地道なパトロールによって築かれているものである。しかし、あまりに平和すぎると、たとえ地道な仕事をマジメにこなしているだけでも、市民からからかわれたり罵倒されたりして、クリスのように仕事への情熱も失ってしまう。これは、警官じゃないワタシでもよくわかる。地道な仕事ほど人に理解されにくいと思うからだ。だけど、地道であっても情熱を失ってはいけないとクリスに教えてくれたのは年下のマンリーであり、彼を慕ってくれた少女たちだった。そんな彼女たちを危険に晒したくないと思う気持ちが、凍っていたクリスの心に火を点したのだ。
マンリーはクリスからたしなめられながらも、警察や街の人々の心をのぞいていく。時々おせっかいすれすれの行動に走る彼女だが、それも無駄になっていないという描写に好感が持てる。印象的だったのが、女性警官から嫌われているお局様警官が、喘息持ち(多分)の子供を気遣う電話をしているという意外な一面を観た後、彼女にマンリーが喘息対策のアドバイスをした後日、さりげなく彼女に「子供の具合がよくなったわ。アドバイスありがとう」と言われるところ(うまく説明がしずらいのだが、だいたいこんな感じ)。嫌われ者だからって嫌ってはいけないし、やはりどんな人にも優しくしてあげなくてはという気持ちになったよ。
その二人に絡んでくるもう一人の主人公、セン。精神を病み、突拍子もない行動に出て人に迷惑をかけているけど、人々はそんな彼を突き放さない(ヤのつく方々が揃っていそうな借金取りでさえも)。それは精神を病んでいても、もともとは湾仔の住人であったから、邪険にできないし、かといって甘えさせられないというところから来ているのかな。映画において、精神を病んだキャラクターはかなりエキセントリックに描かれ、破滅していくことがたびたびあるのだけど、センは登場時からこういう状態だったから破滅させるわけには行かないだろうと思ったけど…やっぱり、救われないと悲しいもんね。

歌手としてはすでにトップクラスのイーソンだけど、映画俳優としては脇役出演を観ていることも多かったし、日本公開作でも『玻璃の城』や『ラベンダー』なので、日本での知名度はうーむ…という状態なんだけど、だんだん主演作品も増えてきた(『エンター・ザ・フェニックス』は日本公開も決定したし)のは評価できるかな。でも、彼ももう30歳越えたのか。なんだか感慨深い。同世代の彦祖やステ監督ほどの派手さはないけど、観ていて安心するのは言うまでもない。
ジョイちゃんについては、以前《身嬌肉貴》で書いたことの繰り返しになってしまいそうなので長々と書かないけど、当分は元気いっぱいキャラで行くのだろうか?
ジャンユーは…ええ、こういうキャラを演じさせると、圧倒的にうまい。反則すれすれやん!と言いたくなるほどうまい。…でも金像にはノミネートされていなかったんだよね(^_^;その代わりに脚本賞でノミネート)。エキセントリックなのに、一瞬正気な表情も見せられたりして、人を煙にまいている。それはほとんどショーン・ペンばりの反則(どういう例えだよ、ショーン・ペンって)だよ。
あと、脇役はいつものメンツ(特にシウホンさんや中信やカーロッ)って感じだけど、これらの人々は顔を見るだけで安心する。一番驚いた特別出演はチーホン。その次は原島くんかな。これこれそこのボク、おばあちゃんをいじめちゃいかんよー。

地味であるし、登場するスターも少ないけどとってもいい話。ストーリーはやや散らばり気味だけど昔の映画ほど破綻してなく、ラストまでにうまく収束する。ジェームズさん自身が脚本を書かれただけあって、比較的しっかりしているよ。こういう作品がたくさん作られて、今後の香港映画の基盤を支えていくのかな。そうであれば嬉しいな。まー題材が題材なので、日本公開が難しいのは言うまでもないんだけど…。

英題:CRAZY N' THE CITY
脚本&監督:ジェームズ・ユエン 製作:イー・トンシン 音楽:レイモンド・ウォン
出演:イーソン・チャン ン・ジャンユー ジョイ・ヨン アレックス・フォン ホイ・シウホン ラム・シュー サム・リー チン・カーロッ リウ・カイチー 原島大地 レイ・チーホン 

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