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SPL〈殺破狼〉(2005/香港)

勧善懲悪の論理が崩壊し、何が正しく、何を信じていいのかわからなくなっている現代社会。憎むべき社会の敵にも守るべき家族がある。正義の御旗を掲げて中東の国を攻撃した大国は、その国の弱き民にとってはまさに凶悪な敵である。
そんな世界の中で、人々は自分のあるべき場所をしっかりと守り、目標達成のためならどんな手を使ってもそれを果たそうとする。この『SPL』は、黒社会の大物逮捕という使命と目標に、彼の手にかかって死んだ部下の復讐という動機を重ね合わせたために、恐ろしいほどの執念を燃やして破滅していこうとする男たちを描いた映画だった。

1994年、香港。
西区警察捜査課のチャン(ヤムヤム)たちは、黒社会の大物ウォン・ポー(サモハン)に不利な証拠を掴んだ部下の一人とともに、ポーの収監されている刑務所に向かう。その途中、高速道路でポーの部下ジャック(呉京)の車に追突され、ジャックは部下の一人を匕首でめった刺しにして去っていく。部下夫妻は死に、彼らの一人娘ホイイーはチャンたち生き残った部下によって育てられる。そのチャンは後頭部に重傷を負い、さらに治療時の精密検査で脳腫瘍が発見される。残り少ない命を覚悟したチャンは復讐を誓い、ポーの逮捕のためなら手段を厭わず、荒っぽい捜査を続ける。そんなチャンを気遣うかのごとく、彼の部下はポーの部下のアジトをガサ入れした際に、手下の一人から大金を強奪する。
3年後の夏。退職を控えたチャンの後任者として、マーシャルアーツに長けたマー(ドニー)がやって来た。凶悪殺人犯と格闘して相手を脳障害に至らしめたというマーの過去が捜査課を騒がす。そんな時、チャンがポーの元に送り出した潜入捜査官が死体で発見される。そこに居合わせた天体オタク少年のビデオには部下をボコボコにするポーの姿が映し出されたものの、最終的に殺したのは彼の手下だった。チャンはマーを除く捜査課の全員に、証拠を捏造し、ポーの犯行として検挙することを提案する。彼らの不審な企みに気づいたマーも同行するが、彼らの狂気を止められない。そんな捜査課の面々もやはり人の子、人の親。父の日を前に、娘同然に育ててきたホイイーや、実の子供たちを気遣う一面も見せるのであった。
しかし、その父の日にポーたちの反撃が始まる。件のオタク少年を襲撃してコピーテープを強奪、警察に送りつけてチャンたちの不法捜査を暴露する。さらにポーはジャックを放ち、チャンの部下を一人ずつ惨殺していく…。

いやぁ、痛い…面白いんだけど、それと同じくらいものすごーく痛い。だから全体的に痛い(ってなんか語弊があるぞ)。香港映画では暴力描写って当たり前だから、一応その手のシーンには免疫があるつもりだったんだけど、それにしてもこんなに痛い描写が続くってーのはどーゆーことだ。日本でも主演作品が幾つかDVD化されている(らしいけど未見)呉京演じるジャックがチャンの部下たちを次々と血祭りにしていくくだりは「うわーやめてよージャックぅー(>_<)」って思っちゃったもの。
しかし、ここまでしてこの映画で描かれるのは「ああ恐ろしきなりオトコの執念」。もにかるさんのblogのコメントでもちょこっと書いたんだけど、復讐に燃えるあまり卑怯な手を使ってまでもポーを捕えたいチョンたちの執念(それがよくわかるのは屋上に揃った4人とマー刑事が向かい合う場面!あの場面の4人の目つきがすでに正気じゃない…)に慄き、それに応戦するポーたちのさらに輪をかけた卑怯さにも同じくらい慄いた。その一方でチャンたちとポーには家族を大切に思う心を持ち合わせていたりするので、いやぁ愛と狂気は紙一重だなぁ(ん?この表現でいいのか?)なんて思った次第。

サモハンさんの演技をリアルタイム観たのって何年ぶりだろう…多分『無問題』以来(爆)?
あの体型はそのまま(でももしかして一回りくらい大きくなった?)で、口ひげに長髪だったから最初誰だかわからなかったけど、悪役でも貫禄と存在感は変わらないなぁ。この貫禄じゃ水島裕さんは吹きかえられないね(古い話してるなー)。サモハンさんがアメリカで人気を集めたTVドラマ『マーシャル・ロー』は観ていないんだけど、留学先でそれを観たという弟曰く、えらくシリアスでビックリしたと言っていたから、いつかこれも観てみたいなぁ。
そんなサモハンさんとクライマックスでは怒涛のガチンコアクション(&衝撃の結末…ここでは書けないけど)を見せるドニーさん、現代劇で姿を見るのはホントに久々だー。いや、もう二度とイッセー尾形とは言いませんから(笑)。黒のレザージャケットに黒ワイシャツ(首元ボタン2つ開け)とかなりセクシー&イケイケ。それに白いベルトを合わせるのはいかがなものかとも思ったが、それはまぁいいか。あまりに強いので恐るべき男と恐れられているけど、かつて自分が追いつめた容疑者を再起不能寸前にまでしてしまい、その男に対して自らの良心の呵責をするかのように面倒を見るくだりも出てくる。この物語の登場人物の中で家族が登場しないのがジャックとマーだけなんだけど、そのあたりで彼の人間性をうかがわせるようにしたのかな、ウィルソンさんは。しかし、「戦いの後の一杯」シーンには大いに笑かせていただいたぜ。ったく(苦笑)。
ヤムヤムはもう、『PTU』のホー隊長以上に非情かつ卑怯かつ悲痛なキャラ。だってあの後頭部の傷からして…先述した屋上シーンの冷たーいまなざしとか…鼻からボタボタたれる血を見ると…。これで金像の主演男優賞候補になったらすごいだろーなー。あと、ヤムヤム部下ズ(こらこら)もよかったなぁ。リウ・カイチーさん、こんなにいい味出してくれるとは。ダニー・サマーさん、名前は聞いたことあったけど、こういう演技するとは知らなかったぜ…。皆様の死にっぷりには心の中で大いに泣かせていただきましたよ。

確かに観おわった後、「痛い…全体的に、痛い…」としか感想が出なかったんだけど、時間を置けばおくほど、「確かに痛いけどさ、ひどい作品ではなかったよなー」というふうに感想も変わってきた。
この映画は決して暴力礼賛の映画じゃない。これを観た欧米のどっかの某映画監督(もろわかり?)みたいな輩が「So Coooooooool!」とか言って暴力シーンをもろパクった映画を作ってもらうようじゃ困るけど、この映画での暴力描写は必然的であり、これはウィルソン監督のメッセージにもあったんだけど(今回メモするのを忘れてしまって…)、登場人物たちが理想として願っていた穏やかな心を象徴するように現れる怖いくらい美しく青い海と、現実の醜さや非情さを強調するためのものだということを考えなければいけないかな、うん。

しかしウィルソンさんってすごいよな…。作る映画のジャンルがあまりにも広すぎる。機会があったらりよん&すーちーの『スパイチーム』と、ジャンユー&サンドラ姐の『ジュリエット・イン・ラブ』(これは日本未発売だから香港でDVDかVCDを買おう)も観ておかなければ。

監督:ウィルソン・イップ アクション指導&出演:ドニー・イェン 
出演:サモ・ハン・キンポー サイモン・ヤム ジン・ウー リュウ・カイチー ダニー・サマー

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