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同じ月を見ている(2005/日本)

いつだって自分にも周りにも素直でいて、まっすぐに人の気持ちを受け止め、清らかに生きていきたい。それは誰でも思うこと。フィルメックスで観た『SPL』の刑事たちだって、そんな思いを抱いていたのに違いない。でも彼らはマフィアのボス逮捕のために、卑劣な手をあれこれと使ってきた。現実のオトナの世界なんてそんなもの。素直に、そして清らかに生きていくことなんて、とてもじゃないけどできない…。
でも、この『同じ月を見ている』の主人公のひとりであるドンは、無口で感情をあまり表に出さないが、清らかに生きている人間だ。そして、助けを求めている人がいたら命も投げ出す勇気も持っている。そんな人間を友に持ちながら、彼を裏切ってしまった親友の視点からこの物語は語られる。

熊川鉄矢(窪塚)は心臓外科で働く研修医。彼が外科医を目指したのは、10歳の頃に出会った幼馴染の杉山エミ(メイサ)の心臓病を治すという夢からだった。二人は結婚を控えていた。ある日、鉄矢のもとにもうひとりの幼馴染、ドンこと水代元(えぢ)が刑務所から脱走したという知らせが入った。ドンは無口だが絵の才能があり、人の思っていることを絵に描いて表すことができるという不思議な力を持っていた。互いの境遇の違いはあれ、故郷の軽井沢で3人は幸せな少年期を送っていた。しかし、今から7年前、鉄矢が高校生の頃に山火事が発生し、エミの父親がそれに巻き込まれて命を落とす。そして、その犯人としてドンが逮捕されたのだ。ドンが自分たちの目の前に現れることを恐れる鉄矢は、彼をエミに会わせまいと行く手を妨害する。
ドンは歌舞伎町で金子(太郎)という男と知り合った。自らの不始末でヤクザに殺されそうになったところをドンに助けられ、ドンはヤクザとのいざこざで銃創を負う。金子は彼を知り合いの美容外科医中田(松尾)のところに運び込み、金子とドンは友情を結ぶ。しかし、ドンは彼の前からも姿を消した。金子はドンとの出会いをきっかけに足を洗うが、ヤクザに襲撃されて命を落とす。死ぬ前に、金子は鉄矢にドンの居場所を知らせる。
ドンは山形の寺にいた。ドンのスケッチを見た日本画家東谷(岸田今日子)が彼を弟子にしたのだ。鉄矢はエミを連れて山形に車を走らせる。そして、彼女に7年前の山火事の犯人は、実は自分であると告白する…。

両親を失い、貧しい環境で生きるドンは、自分が喋らない分、他人の心を理解して絵を描くことで人とコミュニケーションをとってきた。地元の子どもたちからいじめられていても、彼は全てを受け入れていたし、周りに流されやすい鉄矢がそそのかされて彼をいじめても、ドンは何も言わなかった。鉄矢は小さい頃からドンに憧れていたんじゃないだろうか。まるで宇宙に起こる全てを知っているような目をしてスケッチに夢中になるドンの姿に、理想の人間を見たのかもしれない。でも、人間は自分にないものを欲しがり、それを持っている他者に嫉妬する。鉄矢とて例外ではなかったのだ。親友からは尊敬と嫉妬の両面から見られていたドンだけど、彼もやはり人間であり、全てを受け止めていた代わりに、どうしても抑えきれない衝動をキャンパスにぶつけていたのであった…。
この物語のテーマは「人間の生き方の理想と現実と嫉妬と償い」じゃないかなーなんてなんとなく思った。ドンを中心に、鉄矢とエミ、そして金子がとりまく人間模様が展開されるけど、鉄矢はドンを憎み、エミは素直にドンを受け止め、金子はドンと出会って再生する。エリートの鉄矢、裕福な家庭で育ったエミ、堕落した人生を送っていた金子、そんなふうに立場の違う人間たちに対して、ドンは分け隔てなく接し、彼らの前から去っていった。彼らの頭の上にはいつも月が輝いている。いろんな姿で現れても、月はいつも同じだ。だから、この題名であり、それはドンを象徴する言葉でもあり、鉄矢とエミに贈った絵に描かれた彼の姿だったのだろう。
まーでもねー、一応こんなふうに気取って書いてみたけど、実際の本編は結構ツッコミどころも多かったりして。感動した人にはホントに申し訳ないんですが。m(_ _)m
最大のツッコミは二つばかりあって、それを言うとネタバレになるのであえて申しませんが、後半は「おいおい、そりゃねーだろ(泣)」と思ったところも多数あったので。
だいたいコピーからして「号泣」とか「泣ける」とか謳っている映画にはハナッから用心してかかる人間なので(自分で書いていてホントにつまらない人間だと思うけどね)、予想通り泣かなかったし。あーでも、ラブストーリーが突然ヤクザもんになるくだりでは、健太監督ってさすがに欣二監督の息子さんだけあるなーって思ったかな(今回は単独作初監督だけど、欣二監督の遺作を引き継いだ『バトロワ2』は観てなかったもんで)。トーンがぜんぜん違うんだもん。あれくらいの描写は香港映画なら平気だけど、ヤクザ映画も香港黒社会映画も見慣れていない若い観客には結構きついんじゃないかな?

初主演の日本映画だったえぢ。いやーほんとに頑張った!偉いよキミは!…よく考えれば魔裟斗と『漂流街』のTEAHと3人でイケメン殺し屋トリオを演じた三池監督の『DEAD OR ALIVE2』じゃ、台詞もなければ出番も少なく、あっという間に力翔コンビに殺されていたもんな(確か)…。
日本語の台詞がやっぱり完璧じゃない部分は多少目をつぶっても(でも、それが吹き替えされないくらいの演技だったからまた偉い!)、今まで香港映画で観てきたえぢとはまた違って、ちゃーんと「日本人のちょっと変わった青年」になっていて、全編にわたってしっかりと存在感があった。もともとドン役はこれで映画界に復帰した窪塚くん(以下くぼづ兄。弟も俳優デビューしているので最近こう呼んでいる)に当てられていたけど、くぼづ兄があえてライバル役を選び、ドンをアジア人俳優にという話からだったそうだけど、このキャスティングはホントに大成功だったと思う。「キャラが裸の大将くさくても輝いているのはいかがなもんか」みたいな意見もあったけど、それは輝いて当然なんだよ!地獄の天使みたいなキャラなんだから(例えが変か…)。くぼづ兄があちこちでえぢを賞賛しているのでここではあえて引用しないけど、彼にとってえぢとの出会いもまた刺激的なものだったんだろうな。
そのくぼづ兄も見事な復活だった。彼の演じる鉄矢、ホントにイヤなヤツだったのよねー、もうわかりやすくヤなヤツ。ドンのような“純真無垢で人々を癒す青年”役は、この映画の脚本を書いた森淳一監督の『ランドリー』で経験済みだから、くぼづ兄にとってドン役もやれないことはないんだよね。でもあえて鉄矢を選んだというチャレンジング精神と、ここ数年付きまとっていたクレイジーなエキセントリックさを全て脱ぎ捨てた抑え目演技に好感が持てた。ちゃーんとズボンをウエストまで上げて穿いていたし(爆)。頑張れよくぼづ兄、これまでのマイナスイメージを払拭しろよ。ついでに香港でなんか映画にチョイ役で出ちゃってもいいぞ(こらこら)。えぢに誘ってもらえ。
あとはやっぱり山本の太郎ちゃんでしょう!彼が演じる底辺のチンピラ役って結構御馴染ではあるんだけど、それであってもオトナな演技で締めてくれて嬉しかった。えぢとのツーショットも絵になる。ついでに太郎ちゃんと松尾スズキさんのコンビもよかった(松尾さん、出てきただけで笑えたし…『イン・ザ・プール』の伊良部先生じゃないけど)。ツーショットといえば、まさかえぢと岸田ムーミントロール今日子様まで!豪華だ、豪華すぎる…。えぢよ、オマエは幸せ者じゃ。
あ、メイサちゃんを忘れてた。初めて演技を観たけど、オトナっぽいねー。ホントにまだ17歳なの?トシ10歳くらいごまかしてない?
そんなこんなでえぢの日本映画デビュー(え?)を見守れたのは嬉しいわ。日本アカデミー賞事務局の皆さん、どうか是非えぢに最優秀新人賞をあげて下さい。確かにえぢは香港じゃ新人じゃないですけど、それくらいの賞をあげちゃってもまったく無問題ですよ!(ってある意味暴言?)

最後に、久々に聴いた久保田利伸の歌声は、相変わらずセクシーだった…(*^_^*)。

監督:深作健太 原作:土田世紀 脚本:森 淳一
出演:窪塚洋介 エディソン・チャン 黒木メイサ 山本太郎 松尾スズキ 岸田今日子

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コメント

初めまして。
いつも楽しく拝見しております。

くぼづ兄(真似してみました)の次回作は、台湾映画ですよ(残念ながら香港映画ではありません)
えぢは出ませんが、香港女優さんと共演です。

投稿: HALO | 2005.11.24 23:48

HALOさん、はじめまして。
え、それってホントですか?
一時期に比べると、最近の台湾映画の復調は嬉しい限りですが、よくよく見ると、さりげなーく日本明星が出ている作品もあるんですよね。ま、いずれにしろくぼづ兄の今後は見守ってあげたいものです。あまりやんちゃしないでほしいぞ(笑)。

投稿: もとはし | 2005.11.25 23:17

呉米森監督の「夢May的Man」という作品です。
台湾での記者会見も、3週間くらい前にありました。
撮影進行中だそうですよ。
作品では、記憶喪失の役だそうで、記者会見では台湾記者から「実体験を生かせますか?」と聞かれ、唖然とした表情になってました(確かに失礼な質問だと思いましたが)

投稿: HALO | 2005.12.01 00:27

HALOさん、情報ありがとうございます。
香港と台湾の芸能マスコミって、日本で言っちゃまずいことを平気で聞いてきますよね…(-_-;)。

投稿: もとはし | 2005.12.02 20:27

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