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『香港映画の街角』(野崎 歓)に思ふ。

やっぱり、香港映画はやめられない。そして、香港映画はくたばらない。
この本を入手して、まずはざっと流し読みした後に、改めてこう思ってしまった。

香港映画の街角
野崎歓著

野崎さんの文章を読んで感動したのはいつの頃だったろうか。
返還を控えて香港ブームに沸き立った1997年に発行された雑誌「ユリイカ」だったか、あるいは今や韓流ブームにどっぷり浸かってしまった某新聞社系週刊誌での『ブエノスアイレス』評だったか。先のエントリでも書いたが、その流麗な筆致で香港映画を熱く語る姿勢に感動し、この方の文章は必ずチェックしよう、ついて行きます(*^~^*)という決意を抱いたのは言うまでもない。
この当時はブームに乗って数多の書籍が発売されたが、あれこれ買いまくって読んでみた印象は、同じ香港映画本でも「オシャレ系(=王家衛)万歳、ローカル系無視」か、「王家衛なんて屁だ、お笑い&アクション万歳」のどちらかにはっきり分かれていたような気がする。ちなみに当時の香港映画仲間内では、王家衛は所詮ブームだからといわれマイナス評価が大きかったのだが、ワタシはなるべく平等に観たいと思っていた。(というより王家衛映画には一部の例外を除き、もれなくトニーがついてくるから、ちゃんと観なければいけないっていう宿命があったからね)だって、確かに王家衛映画は“香港映画”というよりオシャレなアジア映画♪というスタンスで宣伝され、目新しいものが大好きな若者に飛びつかれたんだけど、それは宣伝がうまいだけであって、やっぱりどう転んでもベッタベタのローカル映画と全く同じ地平にあるってことは、この時点から気づいていたから…。

毎度ながら前置きが長くなったけど(ホンマに悪い癖だな)、自ら「遅れてきた香港映画ファン(fromあとがき)」-う、それをいったらワタシは「ブームに乗せられたまんまここまできた香港映画ファン」ですよ(恥)-という野崎さんが、王家衛から王晶(やっぱり今後は『バリー・ウォン』じゃなくて『ウォン・ジン』と読んだ方がいいのでしょうか?)まで、ここ20年間に作られた、香港映画と名のつくほとんどの映画、およびハリウッドに進出した香港映画人の軌跡を多種多様なテーマで論じた待望の本。
…というか、今まで野崎さんが香港映画本を出されていなかったのがほんとに不思議でならなかった。この本はバラエティに富んだ特集がいつも楽しみな文化雑誌『ユリイカ』を発行している出版社から出されているけど、この雑誌を読んでいれば、野崎さんは香港映画関係以外でもいろんな特集でお名前を拝見するので(手元にある『ユリイカ』では、増刊の「ゲイ・ストーリーズ」で対談に参加されていた)、彼の学生でもないのに、勝手に恩師のように考えていた。さらに香港映画以外の目的で呼ばれても、いつの間にか香港映画の話になってしまっているくらいのオタクさ(失礼)にも親近感を抱いていた。(例えば『AERA』2004/12/27号のミステリー映画特集で野崎さんがチョイスされた「オススメミステリー映画」は全部アジア関係!1位は当然『無間道』だった)

本書に取り上げられたのは日本公開済or未公開作品もあわせて実に多数で数え切れない(笑)。今でも忘れられない、いや、決して忘れてはいけないレスリーの自殺に端を発し、香港の地形の変遷等の歴史を振り返りながら香港映画に多く見られる「屋上」についての考察から、香港映画のトレードマークである黒社会もの、UFO作品を中心とした恋愛映画、その延長線上にある家族の映画とジャンルで香港映画を語るのが前半。特に感心したのは香港映画における家族を語った章。この視点は意外にも日本における香港映画考察としては今までになかったものではないかな?このへんの映画を手がかりにすれば香港における現代風俗&都市民俗学研究なんかも出来そうだよね。
そして後半はお待ちかねの作家論。王家衛、ジョン・ウーの香港映画グローバル化に貢献した両雄をそれぞれ「部屋」と「友愛」をキーワードに愛ある分析と的確な批評を展開し、彼らに対するドメスティック香港映画の両雄、王晶&周星馳の軌跡にも先の二人とほとんどかわらないくらいの愛を込める。(特にこの章は『少林サッカー』から星仔を知った方&王晶作品に激しく抵抗感がある方必読!)
そして、李小龍の挑戦と挫折から始まる、香港映画人のハリウッドへの挑戦。これに関しては嬉しいことも悔しいこともあれこれ思い出して複雑な気分で読んでしまい、ついつい相槌を打つような感じで読んでしまったが、香港人監督と次から次へとコンビを組みたがるベルギー人俳優ジャン=クロード・ヴァン・ダムの香港人監督との作品は全てが駄作でないということを教えてもらった。機会があったら野崎さんオススメのリンゴ・ラム監督作品『レプリカント(ブレードランナーのパロディじゃないよ、きっと)』を観てみるか。
あと、この本がすごいのは本編の後にまとめられた「註」の内容の濃さ。ここでは既発表の香港映画本からの引用なども述べられているけど、さらに本編では述べられなかった情報がぎっしり詰まっていてとっても濃い。注釈だけ読んでいても面白く興味深いという本に出会ったのは、もしかしたらこれがはじめてかも。

再び読み始め、きっちりとあとがきまで読み終えて感じたのは、月並みだけど「う~ん、これは愛だわ」という一言。うん、やっぱりこう言うのが精一杯。
ワタシもこのblogや本館で、思いっきり香港映画への愛を全開にしているけど、それでも「ああ自分、まだまだわかっていないなぁ、若輩者だなぁー」なんて感じることがよくあるし、なんて言っていいのかうまく説明できないと思う時も多い。ありえないと思うけど、もし香港映画をネタに本を出版したり、どっかにコラムを書くとしても、きっとオタク的考察満載になっちゃって、読まれる方には思いっきり退かれちゃうのかも、なんて思いに囚われてしまう。
でも野崎さんはさすがプロの研究者ってこともあって、表現に迷いがないし、好印象を持つ作品でも批判するところはしっかり書き、過去の論調にきっちり異議申し立てもしているという冷静さがある。うーん、本業で文章書き指導している身としては、この姿勢には学ばなければ。
かなりアカデミックな論調であらゆる香港映画を語っていることは、逆に純粋なエンタメとして香港映画のバカさを愛している人からは「なぁにオマエ、なった気してるんだ(岩手弁で『気取ってる・カッコつけてる』の意)」なんて思われちゃうのかもしれない。ま、それはしょうがないんだろーけど、いずれにしろ、新たなる香港電影迷には道しるべの書として、ヴェテラン香港電影迷には香港映画の“再発見”を感じさせる教科書のような本だなぁ、とも感じたのだった。

香港映画に恋をしてから何年経っただろう。香港の返還をはさんで21世紀を迎え、やがて多くの映画仲間は別の国の映画や明星に恋をして、香港映画から去ってしまった。それでもワタシは香港映画がやめられなかった。確かに一時期モチベーションが落ちた時期もあったけど、面白い香港映画に出会えればすぐ復活できる。香港映画はワタシにとっても、元気の源とも言えるかもしれない。
野崎さん、本当にステキな本をありがとうございます。この本のおかげで、ワタシは死ぬまで香港電影迷でいたいって思いましたよ。

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コメント

はじめまして! おはよーございます
勝手ながらTBさせてもらいました
私は昨日、本屋サンでこの本を見つけて、まだ30ページくらいまでしか読めてないんですけど(笑)、「買って損はなかったな」と思っていますぅ~
実は少し前から、こちらを覗かせてもらっていました(^_^;)
また遊びにきますので、よろしくお願いいします♪

投稿: えま | 2005.07.22 09:16

えまさん、こちらこそ初めまして&TBありがとうございました。
『香港映画の街角』、読み終わりましたでしょうか?
香港映画にふれたことのある人なら、誰でも楽しめる本ではないかと思います。
読み終わったら、感想を教えてくださいませ♪
これからも、よろしくお願いいたしますー。

投稿: もとはし | 2005.07.22 23:53

野崎先生:
 南京大學の日本語科の院生です。昨日先生の映画についての講座をうかがってから、重慶森林のDVDを買って、帰ってから早速みました。以前は香港の映画があまり見なかったが、なぜかというと、その色彩が好きじゃないからです。でも、先生の講座をきっかけに、これから香港のえいがが好きになりました。ありがとうございます。

投稿: sannmonn | 2006.03.11 01:14

sannmonn様

[イ尓]好!我是這blog的管理人,叫本橋(もとはし)。
…書きこみありがとうございます。残念ながらワタシは野崎先生ご本人ではありませんが、先生にお伝えしておきました。
南京大学で先生の講座を受けられているのですね。充実したお話を聞かれたようで、本当にうらやましいです。sannmonnさんが今後香港映画にどんな印象を抱かれるのか、楽しみです。

投稿: もとはし | 2006.03.11 21:18

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» 香港映画の街角 / 野崎 歓 著 [It’s My Life!]
2005年2月発売 価格:2730円 333ページ/20cm躍動する身体、疾走する恋人たち、檻としての家、黒社会vs警察、中国返還…、街角の渾沌が息づく香港映画発熱する都市の魅力とともに、目くるめく映像の銀河へと誘う…... [続きを読む]

受信: 2005.07.22 09:13

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