監督と女優は銀幕で恋に落ちやすい。それは古今東西の映画界に言えることであろう。たとえその二人が結ばれても、あるいはどちらかの片想いに終わっても。その女優が主役であれ脇役であれ、監督がいかなる手段をとってもその女優を輝かせようと試みる映画に、ワタシは『○○(女優名)らぶらぶ映画』と名づけて呼んでいる。例えば、離婚しても一緒に作品を作り続けるマギー・チャンと元ダンナのオリヴィエ・アサイヤスの出会いとなった映画『イルマ・ヴェップ』は『マギーらぶらぶ映画』、ホウちゃんこと候孝賢が『珈琲時光』の前に撮った『ミレニアム・マンボ』は『すーちーらぶらぶ映画』といったように。そして、デビュー作以来、ほとんどの作品で出演女優に深く思い入れるイーモウこと張藝謀のデビュー作『赤いコーリャン』から『上海ルージュ』までの『コン・リーらぶらぶ映画』。はい、ここまでいえばわかるでせう。徹頭徹尾エンターテインメントに徹して「あのイーモウがここまでやるー!」とワタシたちを驚かせた中華アクション大作だった、昨年の『英雄』に続いて撮りあげた中華アクション大作第2弾の『LOVERS』(ちなみにこのタイトル、日本と韓国限定なんだってねー)こと『十面埋伏』は、実は『初恋のきた道』以来の、イーモウによる『ツーイーらぶらぶ映画』なのだ!
時は唐代。朝廷に仕える二人の捕史は、朝廷転覆を企む武闘結社「飛刀門(これが英題になっている)」の者が遊女として遊郭に入り込んでいるという情報を得る。冷静で思慮深い年長の劉(アンディ)と軽薄で女好きの若者金(金城)は共謀して遊郭を探る。まずは一般客を装った金がその遊女・小妹(ツーイー)に接近。彼女に襲い掛かったところを劉が金を捕らえ、次に劉が小妹に逢う。彼女は劉の前で見事な舞を披露するが、隙を突いて彼に襲い掛かる。確かに小妹は飛刀門の人間であり、しかも先ごろ死んだ頭目の忘れ形見だったのだ。飛刀門の壊滅をめざす劉と金はふたたび一計を案じる。
小妹が留置所に囚われ、拷問されようとした時、進入した賊が彼女を救い出す。彼(実は金)は随風と名乗り、彼女を飛刀門のアジトまで送り届けようとする。途中、劉の放った追っ手をなんとかかわしたものの、その次に追ってきたのは、なんと朝廷直属の部隊。金が正体を隠して小妹に付き添っている事実が朝廷に伝わっておらず、やむなく金は追っ手を倒して小妹との逃亡を続けるのであった…。逃げる二人と追う男一人。この間に金と小妹は接近し、さらに信じられない事実も次から次へと明らかになる…。
この映画、ネタバレ厳禁とかなんとか書いているわけじゃないけど、こーゆーところで感想を述べる時にはなぜかネタバレしちゃいけないような気にさせられる。いやーだって、映画の中盤では次々にとんでもない真実が明らかにされて、どんでん返しの連続でやりすぎやん!と言いたくなってしまうのだ。いろんなところでも書かれているけど、まさに古装版『インファナル・アフェア』。ネタバレで書こうかなーと思ったけど、まだまだ絶賛公開中(初登場第1位にゃ驚いたぜ)なのでネタバレ控えめで感想を。
最初にも書いたけど、この映画はまさに『ツーイーらぶらぶ映画』。『英雄』でツーイーが演じた如月の役回りは、物語には特に必要ないよなーなんてついつい思ってしまったのだが(暴言失礼)、『英雄』でのない出番の間でたまったストレス(大笑)を解消するかのように、ハナっからケツまでツーイーツーイーツーイーと、どこを切ってもツーイーが出てくる全編金太郎飴状態。遊女姿、囚人服、男装、そして飛刀門の制服(笑)とあらゆる姿のツーイーが登場し、さぞや男子(含むイーモウ。もちろんさっ!)はご満足でせう。おまけにイーモウ&全世界のツーイー迷の男子の分身となったような金城くん&アンディも、ツーイーにガンガン絡む絡む!しかも話が進むごとに絡みが激しくなる!(中国映画なので全裸は出ませぬが)いやぁ、『英雄 縁起』の記事で書いたとおりだったなぁ。ツーイーが観たけりゃ『十面埋伏』を観ろというアレね。そんなわけでこの映画、殿方には評判よさそうだなーなんて思っちゃったりして。(実際、あちこちのサイトでの感想を見て回ったら男子の皆様の感想はツーイーらぶらぶって感じのものが多かったような…ってそうじゃないかも)
だけど…、ツーイーや彼女を追う二人の男の愛憎に重点を置いてしまい、邦題&韓題通りの物語をメインにしてしまったせいか、ストーリーはもちろんのこと、せっかくの武侠片で、しかも武侠小説や香港の武侠片になじんでいる人なら思わず頬が緩んでしまうようなネタ満載のわりにはイマイチ生きていなかったり(全体の作りとしては、『英雄』よりもこちらの方がより武侠片的な映画だったと思う)、クライマックスのあの人とあの人の対決や、この決闘の顛末部分の処理がなんかなーっていう印象だったり(ネタバレになるのでいつか日を改めて書きますわ)、ともーちょっと何とかすればよかったのに!と残念に思っちゃうところが多少あったりして。うん、そうだね、やっぱり『英雄』の方が好きかな、ワタシは。
もちろん、本来この映画にいるはずだった、ムイ姐さんの不在が悲しい。やっぱしムイ姐がいたら、また印象が変わったんだろうなぁ…。エンドクレジットの『アニタ・ムイに捧ぐ』(パンフの冒頭にもこの言葉があがっていた)を感慨深く見守り、悲しみのため息をついてしまう人がいれば、その人は確実に中華電影迷であるんだろうな。
ツーイーについては男子の皆様の感想に任せるとして、中華趣味女子としては金城くん&アンディのことでも書こうかねー。
つい先日『リターナー』を観たばかりだけど、彼の不安定な日本語発音と演技にいつもひやひやさせられてしまう身としては、久々に北京語を喋る金城くんが見られて嬉しかったわー。まぁ、相変わらず「どっちを向いても金城」的なところがあるけど(暴言じゃないよー、念のため)、古装片も結構似合うので安心。女好きという設定のわりにはツーイーとの絡みにエロティックさを感じさせられないのはどーかと思うけど、金城くんってもともとあまりエロティックじゃないからそれもまたいいのかなーというべきか、イーモウの策略、もとい演出意図でわざとエロさを排したのだろうかと疑問に思うべきか。
今やトニーとともに香港映画界を背負って立つ存在となった、我らがスター☆アンディ。40歳を越えた今、最近は特に年齢相応の落ち着きを演技で見せるようになってきた(といっても41~42歳の時に出演した《無間道三部作》じゃなぜか29歳くらいの役だったんだが)ので、若い二人と比べても安心して観られるかな。でも長年香港電影迷やっているこっちとしてはついつい楽しみにしてしまうのが“哀愁の流血シーン”(笑)。ええもう、そのへんはもちろんあるんだけれど、実は他の二人の方が出血量が多かったりするんだよこれが(苦笑)。なんだぁ残念、なんていってる場合じゃないか。
まー、いろいろ文句つけさせていただいたけど、そんなワタシでもステキだと思ったのが、スタッフとしてこの映画に参加している二人の日本人の仕事。『英雄』に引き続いてのイーモウ作品登板となる衣裳担当のワダエミさんは、シンプルかつ鮮烈な色彩の『英雄』からさらにパワーアップ。時代設定にあわせて絢爛豪華な衣裳で画面を飾る。ツーイーの遊女の衣裳もステキだけど、いかにも朝廷の手先といった感じ(なんてったって胸に○と「捕」の字!)の捕史の制服や、逃亡時の金城くんの衣裳もよかったなぁ。音楽の梅林さんはなんと『2046』も担当されるそうで、すっかり中華圏映画でも御馴染な存在になったみたい。メロディアスなスコアがステキだった。
しかし、去年の『英雄』といいこれといい、2年連続で中華武侠映画が日本で全国公開されるとは、いい時代になったもんだ。来年は是非、この時期にカイコーの《無極》を観たいもんだけど…なんか、撮影が進んでないって噂も聞いたなぁ。いったいどーなってんだか。
原題&英題:十面埋伏(House of flying daggers)
監督:張藝謀(チャン・イーモウ) 製作:江志強(ビル・コン) 音楽:梅林茂 衣裳:ワダエミ
出演:金城武 章子怡(チャン・ツーイー) 劉徳華(アンディ・ラウ)
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