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『地下鉄』『君のいる場所』ジミー(小学館)

台湾の絵本作家、ジミー(幾米)の名前を初めて聞いたのはいつごろだったのだろう。3年前、近所の絵本専門店に『君のいる場所』が山積みされていたのを見たときだったかな。その時はまだ「へー、台湾の絵本作家?でも、台湾っぽくないねー」という印象しかなかった。だけど、彼の絵本が中華圏で評判を呼び、金城武&ジジ・リョン主演の《向左走、向右走》、トニー・レオン&ミリアム・ヨン主演の《地下鉄》として香港で映画化され、さらに日本のNHKとの合作で作られた『戀之風景』で、リュウ・イエが演じた絵本作家志望の青年が描く絵としてジミーのイラストが劇中に登場するといった具合で、現在(というか、ちょっと前?)の中華電影界には「幾米ブーム」が巻き起こっている。
 最近、トニー&ミリアム主演、なんと王家衛率いる春光映画(Block2 Pictures)製作の映画《地下鉄》を入手したので、この映画を観る前に、ジミーの2冊の絵本の感想を書きたい。

『地下鉄』(Sound of Colors)

 街が秋の黄金色に染まった雨の日、黄色い傘をさし、白い帽子と白いワンピースを身にまとった少女が杖をついて地下鉄への道を降りていく。サングラスで眼を覆った彼女には、秋色の街が見えない。一人ぼっちの毎日から足を踏み出す少女。彼女を案ずるように、小さな白い犬が寄り添ってついていく。

 

「知らない街を あてもなく 歩いてみたかった 私はどこまで 行くことができるのだろう」

 少女が地下鉄を出ると、外は暖かな秋の日差しと舞い散る木の葉であふれていた。地下鉄に乗り、地上に出るたびに、少女の服の色は変わり、彼女には見えないけれども今までにない世界が広がっていた。

 

「希望をさがそう 暗闇を恐れずに 幸せは ほんの近くに 隠れているのかもしれない」

 眼の見えない彼女は新しい世界へどんどん進む。読み手のワタシたちは彼女とお供の白い犬とともに進み、彼女が見ることのない世界の姿と色を見る。不安も悲しみもあるけれど、それを抱えながら進んでいく少女。白い犬は彼女のそばにはもういない。

 

「私も 探してみよう 真っ赤な りんごを 金色の 一葉を 心に輝き始めた かすかな光を」

 少女の呟きで構成される詩のような絵本なので、ストーリーを紹介するのは難しい。この絵本をいったいどうやって映画に料理したのかも大いに気になる。そんなこの絵本の特色は少女が旅する地下鉄の中と外に広がるカラフルで不思議な世界。どこかモーリス・センダックっぽいところもあるけど、ジミーの絵はセンダックの絵が持つちょっと妖気漂う民俗的な雰囲気は感じない。かといって、中華な感じもしない(後に挙げる『君のいる場所』もそうだけど)。枕元に一冊置いて、寝る前に気に入った言葉と絵を眺めて眠りにつく。そんな感じで読みたい絵本。

『君のいる場所』(Separete Ways)

 郊外の古いアパートメントに住む男女の物語。彼女は玄関を左に曲がるくせがある。彼は玄関を右に曲がるくせがある。彼が彼女に会うことはなかった。彼はバイオリニスト。彼女は翻訳家。二人とも、ときどき自分の人生について考えていた。そんな二人がクリスマス前の冬の公園で突然出会い、お互い恋に落ちる。けど、突然の雨がつかの間の恋に幕を引いた。交換した電話番号はメモが雨ににじんで読めなくなってしまう。左に曲がるくせのある彼女と右に曲がるくせのある彼はこれ以降出会うことはなかった。幸せだった恋の記憶は孤独の向こうに追いやられてしまう。はたして、実は隣同士に住んでいる二人が、再びめぐりあえる時は来るのだろうか?

 ひたすら左に進み続ける彼女とひたすら右に進み続ける彼。…もし曲がった先が行き止まりだったらどうするのだろう?なんてつっこんじゃいけない。日本一じれったいラブストーリー『君の名は』以上のすれ違いを繰り返す二人。ほんのすぐ近くに、そしてさっきまで彼/彼女が通ったばかりなのに、お互いその存在に気づかない。都会なんて案外狭いのに、一度会った人間にもなかなか出会えない。画面にみっしりと描かれた人の姿を見ながら、思わず彼/彼女の姿を探してしまう。シンプルな絵にシンプルな表情の人物だけど、そこから人を愛した喜びも人に会えない寂しさも伝わってくる。

《向左走、向右走》も今年日本公開が決まりそうなので、ここで日本でも広くジミーの絵本が読まれると嬉しい。

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コメント

もとはしさん、初めまして。「ぽちぶくろ。」のぽちと申します。
bk1のTBを辿ってお邪魔しました。
わたしも『君のいる場所』を読んだのですが、もとはしさんの記事を読み、『地下鉄』もぜひぜひ読もう! と思いました!!

ジミーさんは、日本の絵本専門家(評論家?)さんからは「あれは絵本(子供向けの絵本という意味で)じゃない!」なんて言われてしまっているみたいなのですが、わたしはそういうくくりを超越した、才能あふれる画家であり、作家であると感じています。
映画公開も楽しみです。

では、お邪魔いたしました!
もう過去の記事ではありますが、よろしかったらTBさせてください!

投稿: ぽち | 2004.09.13 11:27

ぽちさん、こちらこそ初めまして。
ワタシもbk1にTB送った時にぽちさんの記事も拝見いたしました。
ワタシは『地下鉄』が初ジミーでした。映画にあわせて原語版も欲しいかな、と思いつつ冬に香港へ行ったときに入手し損ねたのですが。
絵本は子供のものだけじゃないと考えているワタシとしては、ジミーの絵本はティーンエイジャーが一番合っているのかなという印象もありましたが(現にワタシも知り合いの高校生に勧めました)、子供と一緒に読むこともできるんじゃないかなという気もします。原語版はもちろん、他の作品も読んでいきたいと考えております。

TBですが、まだ受け付けておりますので大丈夫ですよー。是非よろしくお願いいたします。

投稿: もとはし | 2004.09.13 22:17

はじめまして。まざあぐうすと申します。ぽちさんのサイトから参りました。
 台湾の絵本作家ジミーさんの作品に今年出会いました。本当に心に沁みる言葉、人生の洞察に満ちた言葉に、感動し、何度も何度も読み返した作家のお一人です。
 今年最後のアップとして、ジミーさんの絵本を数冊取り上げました。年明けにでも落ち着かれた頃に、まざあぐうすの「ほのぼの文庫」にいらしていただけるとうれしいです。

 初めてですし、こんな年末ぎりぎりの時に、書き込みをさせていただくことにためらいを感じましたが、素敵なサイトですので、これからも時々訪れさせていただきたいと思っております。

投稿: まざあぐうす | 2004.12.31 16:51

まざあぐうすさん、あけましておめでとうございます。コメントありがとうございました。
ジミーの絵本は邦訳もだいぶ数が揃ってきましたが、未訳のものにもいい本がありますよ。(ただし日本語への翻訳が難しそうなものもあるのですが…)
一言ごとに心に染み入る文章はもちろん、色彩豊かな絵柄にも心ひかれますね。

投稿: もとはし | 2005.01.02 23:57

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