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思い出の夏(2001/中国)

 注・この映画はまだ日本公開前の映画なのですが、今回の感想はかなりネタバレしております。通常、日本公開中の作品についてはネタバレなしで感想を書いているのですが、今回はネタバレ部分にあれこれ思うことがありましたので、あえてネタバレしました。まだ未見でこれから観に行こうと楽しみにしている方は、次の段落で読むのをやめることをオススメいたします。失礼しましたm(_ _)m。

 子供の頃、映画を観て俳優に憧れ、映画に出てみたいと思った。これは誰しも一度感じたことがあるのではないだろうか。そして、その思いは日本や西洋だけでなく、現代の中国、西北の田舎の村も同様だ。今年の「中国映画の全貌」で上映された新作『思い出の夏』は子供の頃映画に憧れた映画好きなら経験したり感じたりした、まさに思い出がよみがえるような映画だった。

 村長の演説を聞いていた母親が、彼が演説で「最初に(首先)…」と言った時に産み落としたという少年、王首先(ワン・ショウシエン、ウェイ・チーリン)は12歳。ワンパク小僧で暗記が苦手、本来なら中学生なのに1年落第して現在は小学校4年生。彼は映画に夢中で、屋根に上ってアンテナをいじっては「チョウ・ユンファを見るんだー!」と駄々をこねては怒鳴られる。
 そんな時、村にロケ隊がやってくる。助監督の劉(チョン・タイション)の説明によると、ロケ隊はこの村で映画の子役を探しているという。俳優を夢見る首先は張り切るが、落第生で問題児の首先が映画に参加することを、校長先生(リー・ワンチュアン)は快く思わない。学校で行われたオーディションによりこの役は級長に決まったが、首先の親友六子(リウツ、リュウ・シーカイ)が一計を案じ、級長の代役として首先の映画参加が決定する。映画の内容は田舎の村から大好きな姉と別れて都会の町に行った少年が、村が恋しくて戻ってくるという物語。だけど、一度村から出た人間がまた村に戻ってくるなんて考えられない首先はどうしても「ボクは町には戻らない」という決め台詞が言えず、劉助監督に怒られてしまう。首先は村人や友達からアンケートをとり、町に行ったら誰も村に戻ってこない根拠を劉助監督に見せる。映画と現実は違うと感じた首先はまたしても台詞が言えず、結局役を降ろされてしまう。そしてロケ隊が去った後、ロケ現場だった自分の家の庭先でスタッフが使っていた露出計を見つける首先。彼はロケ隊を追って、遠い近隣の村へと走り出す…。

 現代の田舎が舞台、出演者はほとんど素人、主人公は子供…といって思い出されるのは張藝謀監督の『あの子を探して』(1999)。この作品とイーモウにオマージュを捧げているといってもよいこの映画は、中華電影好きなら思わずニヤニヤしてしまう小ネタがいっぱい登場する。首先は成龍とリンチェイに憧れてポーズをとり、飯を食べながら『男たちの挽歌』でユンファ演じるマークが台湾マフィアに殴り込みをかける場面に熱中する。ロケを見に来た子供たちは「小燕子(ヴィッキー・チャオの出世作ドラマ《環珠格格》での彼女の役名)はロケに来ているの?」というし、極めつけは冒頭シーン、村で2年ぶりに開催された野外映画会で上映されたのが『キープ・クール』!ちょうどこの映画の直前に観ていたので、大笑いさせていただきましたワタクシ。
 その『キープ・クール』では高層ビルが林立する現代の北京が舞台になっていたが、この映画の舞台である山西省の村は同時代の中国でありながら映画館はなく、テレビも映りが悪いしもちろんパソコンやケータイもない。道路も舗装されておらず、隣の村まで20キロ以上もあるようなところだ。中国の都会と地方の格差は、都市型マンションが次々に完成する東京の都心と鉄道の駅もなく過疎化が進む岩手県の山中の村(注・これはあくまでも喩え)の格差より激しい。『あの子を探して』では貧しさから町に働きに出る少年の話だったし、首先も今はまだ子供だけど、成人したらきっと都会に働きに出るのだろう。そんな田舎育ちの首先は、都会から来たロケ隊が作る田舎回帰の映画が理解できない。俳優はやりたいけど、現実と違う台詞はどうしてもいえない。教科書の暗記が苦手でも、田舎の村の現実はよくわかっている。だから演技でも嘘は言えない。一方、改革開放に躍起になり、日本を始めとするアジアの先進国に追いつけ追い越せとばかりに経済発展を進める都心部。あまりに急激に発展しており、次の開発は地方の番だとばかりにこんな映画を企画したのか、あるいは発展に疲れた都会人が田舎に理想を求めて企画したのか(笑)。
 せっかくの俳優デビューを棒に振った首先だが、露出計を手にロケ隊を追いかけて自分の村から飛び出す。彼の思いはただ、これ(露出計)がないとロケ隊が困るに違いないから、届けて喜んでもらいたいという気持ちだけ。ワンパク坊主できかん坊に思えた首先も、ロケ隊で俳優として過ごした短い期間を大切に思っている。いろいろあったけど、彼らが大好きだったのだ。そして、劉助監督も同じ気持ちがあったからこそ、首先を必死に探したのだ。
 映画をめぐる記憶を共有できる前半と、どこか『あの子を探して』や子供が主人公のイラン映画に似ている後半では演出の感じも違うようでもうちょっと統一感があってもなぁと思ったのだけど、見終わったあとは暖かくなる小品。子供の時にささいなことでも一生の思い出になるような時を得た人には、きっといろいろと思い当たることがあるのかもしれない、なんて考えながら観たのであった。

原題:王首先的夏天(High Sky Summer)
監督:李継賢(リー・チーシアン) 
出演:魏志林(ウェイ・チーリン) 劉世凱(リュウ・シーカイ) 成太生(チョン・タイション) 李万全(リー・ワンチュアン)

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