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小さな中国のお針子(2002/フランス)

 今年は「フランスにおける中国年」らしく、春節の時にはエッフェル塔が紅色に染められた。かつて鄧小平もパリで青春時代を送っていたというし、マギー・チャンの前の旦那はフランスの映画監督オリヴィエ・アサイヤスだったし、『天地英雄』の姜文さんの奥方も確かフランス人と聞いたから(これもずいぶん前の話だけど)、フランスと中国というのは縁の深い関係にあるのだなと思う。
 この『中国の小さなお針子』は、舞台が中国でダイアローグも中国語、出演も中国の若手俳優を揃えているけど、フランス映画。パリ在住の中国人監督で、監督第1作『中国、わがいたみ』が日本でも公開されているダイ・シージエ監督が自らの小説『バルザックと小さな中国のお針子』を映画化した作品。

 文化大革命の頃、中国では退廃的な大人たちや西洋文明がバッシングされ、歴史的財産も壊された。そして多数のインテリ青年が「下放」により、書を手放して農村で働くことになった。下放青年のルオ(チェン・クン)とマー(リュウ・イエ)は四川省の山奥の村で慣れない重労働に身体を痛めつつも、モーツァルトのヴァイオリン曲を「毛主席を讃える歌」とごまかして奏でたり、村では仕立て屋に最新の流行を指導し、再教育中の青年が隠し持っていた外国小説をむさぼり読んでいたりしてつらい日々をしのいでいた。そこで「お針子」と呼ばれる少女(チョウ・シュン)に出会い、二人は彼女に恋をするが、ルオは少女に積極的にアプローチし、マーは思いを寄せながらも陰で二人を気遣っていく。二人の影響でバルザックを読み、知識を持つことを欲するお針子。そして広い世界を見たくなったお針子は、山奥の村と二人の青年のもとから旅立ってしまう…。

 監督は中国出身、舞台は中国、台詞も中国語、そして今や“中国四大女優”の一人となったチョウ・シュンに、『山の郵便配達』《藍宇》で注目されたリュウ・イエと豪華キャスト。でも、この映画はフランス映画の香りが漂ってくる。ダイ監督自身、フランスに暮らして20年ほど経つというので、フランス的になるんだろうな。この印象はやはりフランス在住のベトナム人映画監督、トラン・アン・ユンの『夏至』を観たときに、舞台も台詞もキャストもベトナムなのにフランスっぽいと感じたのと同じだった。
 やはり文革をテーマにした『中国、わがいたみ』は大学の講義で観ていたんだけど、こちらは結構辛くてね、他愛ないことを大罪と問われてしまい、労働改造所に送られた少年の話はかなりきつかった。ダイ監督はイーモウやカイコー、『春の惑い』の田監督と同世代。この3人の監督も実際に文革を経験し、自作で文革に対する悲しみや怒りをストレートに描いているので、作風や思想は違っても共通点があるのかな、と思っていた。でも、『お針子』では思ったより文革のハードさが画面に出ていないのは、文革批判が原因で撮影不可能になるのを恐れていたからか、それともこの物語で文革はただの背景だったから、悲惨さを強調しなかったのか?…たぶん後者だろうな。ここで描かれる下方の生活に辛気臭さや悲惨さがないのは、ルオとマーがお針子との恋愛に夢中だったからそれを吹き飛ばせたといえるのかもしれないし、あえて文革期の山奥の村を桃源郷のように描くことで思い出として際立たせようとしたのかもしれない。

 無学な少女に知識を教えていくうちに恋に落ちていく男、というパターンは『マイ・フェア・レディ』でも知られる“ピグマリオン”からか?でも、知識を与える男も成熟した大人ではなく、インテリとはいえまだまだ若くて坊ちゃん育ちだった学生。だから、お針子とルオ&マーは対等なスタンスで結ばれる。何もない四川の山奥で築かれた微妙な三角関係は、ルオかマーがお針子と結ばれることで崩れるのではなく、お針子の自立で崩壊する。恋愛ものとしてこの映画を観ればどちらとも結ばれないのはどうもなーなんて思う人もいるのかもしれないけど、これは恋愛映画ではないのでこういうこともありなんだろう。女性の自立云々をいうとちょっと古風な展開かなと思うところはあるけど、フランスの観客はここに感動したのかな?

 お針子のチョウ・シュンは日本でも『ふたりの人魚』や『ハリウッド・ホンコン』で知られるけど、撮影時すでに20代半ばだったというのにちゃーんと18歳で通じるルックス。同じ“四大女優”のチャン・ツーイーやヴィッキーとはまた違った個性を持ってるようだ。あと、もともと控えめな俳優だなぁと思っていたリュウ・イエ君はここでも控えめ。『山の郵便配達』ではその控えめさとヒョロヒョロ感で印象を残していたので、控えめが魅力?と認識するかも。対するチェン・クンは兄貴分気質の印象。
 しかし、ラストで成人した現代の二人が出てくるんだけど、ここははっきり言っていらなかったような気がする。現実を描くのも大切だけど、二人にお針子の記憶を美しく刻ませたまま、あえてロマンティックに結んでも充分だったんじゃないかなぁ。せっかくのフランス映画なんだから。

原題:Balzac et la petite tailleuse chinoise
 監督・原作/戴思杰(ダイ・シージエ) 
 出演/周 迅(チョウ・シュン) 陳 坤(チェン・クン) 劉 燁(リュウ・イエ)

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コメント

もとはしさん、はじめまして!
がめ@広州と申します。
ココログ新着記事に「小さな中国のお針子」のタイトルを見つけ、飛んでまいりました。
小生、周迅のファンでして、彼女の主演映画やテレビドラマなどは結構見てきました。日本ではまだまだ知名度がありませんが、中国4大女星の中では一番個性的ではないかと思っています。
現在仕事で広州に住んでおり、ココログで広州からのレポートを書いていますのでよろしかったら一度お越しください。
http://gamekyu.cocolog-nifty.com/kyogame/
では、これからもちょくちょくお邪魔したいと思いますのでよろしくお願いします。

投稿: がめ@広州 | 2004.02.26 00:18

がめさん、はじめまして、もとはしです。
広州からのコメント、ありがとうございました。映画の感想もいろいろと思いながら書きましたがいかがでしたでしょうか。
 ワタシ、周迅作品は『ふたりの人魚』も『ハリウッド・ホンコン』も観ていなかったので(田舎なのでこっちまで映画が来なかったんです)『お針子』が初めてだったんだけど、彼女はなかなか印象的でした。先の2本もビデオかDVDで観ておきたいと思います。
 そちらのココログにも後ほどお邪魔いたしますね。ではでは。
 

投稿: もとはし | 2004.02.26 21:42

がめ@広州です。
早速コメントいただき、また当方のココログにもお越しいただきましてありがとうございます。

ほかの方が書かれた映画の感想文を読ませていただくのは、自分の気づかなかったところを知ることができて楽しいですよね。これからも映画評楽しみにしております。
  
ココログに移行する前のわたしの日記にも中国の映画に関する感想をいくつか載せておりますので、よろしければこちらもご覧になってくださいね。
http://note1.nifty.com/cgi-bin/note.cgi?u=BYR11615&n=1
それではまた。

投稿: がめ@広州 | 2004.02.27 00:48

はじめまして。
私のblogで、こちらのblogの内容を引用させて頂きました。引用した記事は以下にありますのでご確認ください。
http://rumicyan.blog12.fc2.com/blog-entry-6.html
ちなみにしばらく前、チャウ・シンチーの伯父さんで香港でも一番有名なアナウンサーの同級生という香港人とお食事しました(非常に遠い・・・)。彼は非常に苦労人だという話を聞きました。私は食神と名前を忘れましたがSFの孫悟空と少林サッカーしか見てませんが、非常にエネルギッシュで楽しい映画をを作りますよね。日本にもこういう人がいたらいいのに、と思います。

投稿: rumicyan | 2005.06.06 10:24

rumicyan様、はじめまして&本記事紹介ありがとうございました。(初期の記事にはTBを外していましたので、ご迷惑をおかけしたかと思います)
この映画自体はほとんど中国映画といっていいもので、内容的に中国で作れない&監督がフランス在住なのでこういうことになったということですので、フランスな匂いはあまりしないんですけどね。

そうですね、コメントにあります通り、チャウ・シンチーは苦労人ですね。友人のトニー・レオンと一緒にTV局の養成所に応募したら落ちてしまい、なんとか夜間武にもぐりこんで俳優になったという有名なエピソードからもよくわかります。日本でもブレイクは遅かったし…(^^ゞ。
でも、香港だからこそ生まれた俳優じゃないでしょうか。なんて思います。

投稿: もとはし | 2005.06.06 23:53

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