パープルストーム(1999/香港)
この映画を観て思い浮かんだのは、映画『マイノリティ・レポート』や『ブレードランナー』の原作者であるフィリップ・K・ディックが自著でよく取り上げていた「偽物の記憶や自分」というテーマ。いまの自分の記憶が作られた偽物で、本当の自分に隠された衝撃な事実を知った時、アイデンティティは崩壊していく。もし、そんな自分にどちらかの運命を選ばなければいけないという究極の選択が迫られた時、どうするのだろう…。
カンボジアのクメール・ルージュの残党から構成されるテロリストの一人、トッド(ダニエル)は香港に停泊した北朝鮮籍貨物船から化学物質「リシンX」を強奪する任務の最中、銃撃戦に巻き込まれて香港警察に身柄を拘束される。警察の対テロ部隊(ATI)主任のマー・リー(エミール)は検査の結果から、トッドが記憶喪失にあることを知り、テロリスト殲滅のためにトッドを利用し、精神科医シャーリー(久々の香港映画出演!のジョアン)の協力を得て彼の記憶を偽造する。「テロリスト集団に入り込んでいた潜入捜査官」に仕立て上げられてしまったトッドだが、ときおり過去の記憶のフラッシュバックに悩まされる。やがて、彼の目の前に現れたテロリストのソン(現在は映画監督であるベテラン、カム・コクリョン)とグンアイ(ジョシー)により、トッドは自分の本当の姿を知ることになるが、それと同時に、ソンたちの行動に疑問を抱くことになる…。
観ていると、いろんな痛みが伝わってくる。物心ついた頃から戦いの中に身を置いてきたトッドは自らの過去と正義との間で葛藤する。彼とは親子の縁を切りながらも、父親としての姿を見せてきたソン、ソンからトッドへ与えられた「恋人」でありながら彼女なりの方法で彼を愛してきたグンアイ。戦いの意義を失いかけたテロリストたちがめざしたのは祖国への復讐だった…。この映画は決してテロ賛美映画ではないし、悪が善に勝つ話でもない。しかし、テロリストである3人の描写には説得力があった。それゆえ、ATI側の描写が弱いのが気になる。いや、エミールには罪はないけどね(笑)。ついでに蛇足。テロリストといえば、かつてのソンの上官役が、中国で社会派コメディ映画を作ることで有名な(日本では『黒砲事件』『青島アパートの夏』が映画祭で紹介)黄建新監督だった。なぜ?カム・コクリョンさんの人脈かな?
原題:紫雨風暴
監督/テディ・チャン 出演/ダニエル・ウー カム・コクリョン エミール・チョウ ジョシー・ホー ジョアン・チェン
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