ストームブレイカーズ 妖魔大戦(2015/中国)

 新宿武蔵野館が復活して中華電影の上映が徐々に増加しつつありますが、この年末年始の帰省期間は、ちょうど新作公開の谷間にあたってしまい、残念ながら湾生回家(2月に地元公開予定)も小さな園も見逃しました。でもなぜかこれは観ました。
『ストームブレイカーズ 妖魔大戦』という壮大な邦題に反して、原題は《万万没想到》。なんだそれは。 

Surprise

ジャパンプレミアは広島国際映画祭だったようです。

 天竺に向かう唐僧(ボーリン)と悟空一行が巻き込まれた大ピンチはおいといて(笑)、主人公はなぜか人間界で暮らすアホな下級妖怪の王大錘(白客)は自分を大物だと思っているけど、周りの人間にはバカにされてる。今日も雇い主の小美(楊子珊)にこき使われながら焼餅を売っている。そんな彼が霊力を失って人間になった悟空と出会ったことから始まる大騒動。

 元ネタの《万万没想到》というのは、監督も務めるネットクリエイターの叫魯易小星が2013年から製作したネットドラマ(現在4シリーズまで製作)だとか。主人公の名前は常に王大錘で、この映画同様白客が演じているとのこと。検索したら日本語の紹介記事もあったのでリンク貼っておくけど、中国実写版ギャグマンガ日和ですか、はあそうですか、としかリアクション取れなくてすみませぬ。

 ああ、これを知って大いに納得したわ。映画を観た時に感じた軽さと安さとおバカさと大味さに。でもね、それでも嫌いにはなれないんだよねー。かえってそれを逆手に取って楽しく作ってる感があって。日本でも同じようなノリの安いドラマや映画はあるけど、あまり安いとこっちも腹が経つからね(笑)。むしろ、人気があることによって、スケールアップした中で安さを武器に自由にやっちゃってる感が楽しいとは思った。

 メインキャストは若手、ゲストにボーリンとエリックとっつぁんを迎えていても、あまり大作感が出てないのも悪くない。近年の大陸映画は監督や俳優を大陸以外から迎えて台湾や香港の力を借りる感を覚えてそこで多少もにょるところもあったんだけど、これは完全に大陸オリジナルだし、そのへんの感覚は以前書いたモンスター・ハントにも通ずるところもあるかな。なによりも健全で、頭空っぽにして楽しめるのはいいんじゃないの?

 それでも煩悩まみれの唐僧はもっといじめてよかったんじゃないのとか、王大錘の村を治める呪術師の慕容白(馬天宇)が、全員アホアホキャラが揃っている中で唯一最初から最後までどシリアスだったのはもっとなんとかしてもいいかも、なんて多少思ったけどね。あ、そうそう、スペシャルゲストはまだいた、この慕容白の先祖を演じていたのが、孫文または中華な五郎ちゃんことウィンストン・チャオだったのですが、うっかり流してしまいました。ははははは。

 しかし、一番謎なのは、なぜこの映画が日本で買われて公開されたかなんだよな。それが知りたい。元ネタのネットドラマも結構な現代中国語スラングの勉強になるというので、ちょっと観てみたくはあるんだけど…。 

原題(&英題):万万没想到(surprise)
監督:ジョシュア・イ・シャオシン 製作:ホアン・ジエンシン ジェフリー・チャン 美術:ハン・ハン 音楽:高梨康治
出演:バイ・クー ヤン・ズーシャン マー・ティエンユー チェン・ボーリン エリック・ツァン ウィンストン・チャオ

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『台南 「日本」に出会える街』一青 妙

新年快樂   萬事如意

 昨年は劇場で中華電影をそれほど観ていなかったこともあり、あまり更新できませんでした。
今年は劇場のみならず、ソフトやTV放映等で未見作を押さえつつ、できるだけ劇場で観られるように頑張っていきますので、今後ともよろしくお願いいたします。
 とりあえず、近日中には年末に観た『ストームブレイカーズ・妖魔大戦(万万没想到)』の感想を書きますね。

 で、年明け初の記事は台湾ネタです。

 相変わらず続く書籍界での台湾ブーム。
一時期の猫も杓子も的「おいしーい、かわいーい、ほっこりー」なトーンはだんだん鳴りを潜めているようだけど、それでも先月はHanakoやCREAで特集が組まれたりで、まだまだこの流れは終わらない感じ。
 そんな中、昨年は東海岸をとりあげた『わたしの台湾・東海岸』を出版した妙姉さんこと一青妙さんがもう1冊出した台南本を読みました。


 前著『わたしの台南』から発展し、見どころの多い台南の中でも、日本統治時代に建てられて、リノベートされた建物を中心に、かなりディープに紹介されているおもしろい本。新潮社の美術グラフ「とんぼの本」のシリーズの1冊なので、建築メインになるのは納得できる。
 雑誌の台南特集でも取り上げられるリノベカフェももちろんあるけど、國華街と西門路に挟まれた西市場や、現地でもパンフレットをもらった昭和天皇が皇太子の時に行幸したルートなど、面白い話が多い。中でも目を引いたのが、新渡戸稲造が関わり、ワタシ自身も昨年足を運んだ台糖の糖業博物館も含む台南に多く残る製糖工場跡と、安平にもある塩田跡。ここはそれぞれ統治時代に発展した産業であるので、これらを回るだけでも南部の産業もわかるのかもしれないなあ。
 もちろん、八田與一の功績は欠かせない。あとはやはり昨年行った新化のさらに先にあるマンゴーの名産地・玉井(統治時代最後の漢人による大規模武装蜂起抗日反乱と言われるタバニー事件があった場所でもある)も紹介されていたのがよかった。

 おいしさや可愛さを求めるのはもちろんアリだけど、もっとつっこんだ旅をしたいと思うのなら、こういう旅も面白い。ここ最近、職場で新渡戸や後藤新平などの岩手の先人と台湾との関わりを調べる機会が増えてきたので、これらを参考にして歴史をたどって行きたいものである。

 そうそう、その調べ物も兼ねて、来月11ヵ月ぶりに台南へ行ってきます。
書店や古書店、図書館で資料を探しながら、まだ行ってない面白い場所へ行くのが楽しみです。あーでも一応旧正月シーズンにかかっているから、《健忘村》《52Hz, I Love You》も観られたらいいんだけど。

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名もなきならず者たち、銀河に新たなる希望をつなぐ。

 2016年もあともう少しで終わり。
 中華電影の上映が減ったり、個人的にもHP本館がなくなったりとここに書けないこともいろいろありすぎて、blog記事も例年になく書けませんでしたが、皆さんいかがお過ごしでしょうか。これが今年最後の記事ですが、予約投稿かけているので、それまでに目標だった今年観た映画の感想が全部書けているかどうかは果てしなく不安です(苦笑)。

 さて、映画界でのこの冬最大の話題といえば、一代宗師以来3年ぶりの出演となるトニー・レオン主演、共演に金城くん、イーソン、angelababyが揃い、王家衛がプロデュースした《擺渡人》!…と言いたいところなんだけど、残念ながらまだ観る機会に恵まれません(泣)。この冬香港や台湾に行くことができないからです。
 と言うのはあくまでも中華圏の話題で、全世界的な話題に目を向ければ、昨年より製作が再開した20世紀が誇る宇宙ファンタジー映画の金字塔、スター・ウォーズ(以下SW)シリーズの初スピンオフ、『ローグ・ワン』が全世界的にヒットしていること。これにアジア人初のSWメインキャストとして、ド兄さんことドニー・イェンと姜文が出演すると1年ちょっと前に発表されたときには、中華電影迷の間に大きな反響を呼んだのは言うまでもない。

 そんなわけで今年最後の記事は、ローグ・ワンについてです。
SWシリーズはエピソード4から6をTVで何度も観て、昨年公開された7(フォースの覚醒)を劇場で観ているけど、熱心なファンでもないし、まさかこのblogで書こうなんて昔の自分なら信じられなかっただろうな…^^;



 エピソード4『新たなる希望』(いわゆる第1作ですな)の開幕に流れる「反乱軍ゲリラが帝国軍から惑星破壊兵器デス・スターの設計図を入手し…」のエピソードを、2年前のハリウッド版ゴジラを手がけたギャレス・エドワーズ監督によって映画化。 

 デス・スター設計を手掛けた父親を持つ札付きのならず者ジン・アーソ(フェリシティ・ジョーンズ)を中心として結成された愚連隊(これが題名の由来)が敵陣に切り込む物語だけど、このローグ・ワンの中心メンバーとなっているのが、ド兄さん演じる盲目の僧兵チアルート・イムウェと、姜文演じる相棒のベイズ・マルバス。



 SWシリーズと言えば、35年以上昔からも全く変わらないクラシカルな宇宙空間に展開する激しいバトルがお約束だけど、今回はそれに加え、緑豊かな惑星を舞台にした激烈なゲリラ戦も繰り広げられる。その共存は実に現代的だし、見ごたえがある。
 そんな中でひと際目を引いたのが、やはりチアルート。
いやもうこっちがどーのこーの言わなくても、とにかく観ればわかるとしか言えないあのアクション。宇宙最強が決して伊達じゃないのがわかる(笑)。そもそもはクロサワリスペクトと言われるSWシリーズに初めて出演したアジア人俳優が日本人じゃないのが残念だとか、今や米国に次ぐ第2の市場となった中国狙いのキャスティングかとかの雑音が多少聞こえてきたけど、ドニーさんのインタビューを基にしたこの記事を読むと、そんなことは決してないことがわかる。ギャレスもまた、ド兄さんを起用したのはアクションだけでなく俳優として見込んだからというのも嬉しい。

 チアルートはただの強者ではない。人をつなぐ力として語られるフォースが消え去ってしまった時代に、その力は持てないものの、存在を信じて限りなくジェダイに近づこうとしている。加えてユーモアも持っていて、若きジンの可能性もフォースと同じくらい信じている。そういうキャラクターができていて、それでいてのあのアクションなのだから説得力があっていい。ホントに嬉しいものである。
 彼の相棒となる姜文のベイズも、思った以上にいいヤツだったのが嬉しい。アジア映画によく見られる(含む日本な)男同士の熱い絆で結ばれている二人なので、なんか一部がザワザワしちゃってるけど(笑)、とかく一匹狼タイプな姜文がこういう無骨な男を演じるわけだし、そーいえばこの二人は関羽の映画こと『三国志英雄伝 関羽』(すいません残念ながら未見です)でも共演しているし、ド兄さんも監督兼任したことがあるから、きっと気は合うんだろうなって思ったりして。

 そんな“ならず者”たちが果たすミッションとその運命は…ってのはここでは言えないけど、一つ言うとなれば、これが見事に『新たなる希望』につながっていくというのも素晴らしい。これが初SWなら、これからエピソード4がどう展開するかという楽しみが味わえるし、ヘヴィなファンもまた楽しめるのがいいよね。
 そして、この映画でド兄さんを初めて知った人もまた幸せだと思う。2月には再びのハリウッド出演作『トリプルX:再起動』もあるし、何と言っても4月には当たり役である『葉問3』がある!もちろん、過去作品もたくさんある。これがきっかけで、アジアンアクションにハマれる楽しさがあるからね。

 というわけで、来年は『葉問3』を始め、たくさんの香港映画が日本でも上映され、たくさん観られますように。
 そして皆様、どうか良いお年を…。May the force be with us! 

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侠女(1971/台湾)

 映画好き(シネフィルに非ず)と言っておきながら、実はワタシは意外なほどクラシックを押さえていない。学生時代に『ローマの休日』や『カサブランカ』や『用心棒』などは観ているにせよ、午前10時の映画祭は覇王別姫や宋家のように、かつて自分が好きで観ていた作品が来たくらいしか行ってないし(ちなみに年明けからは『山の郵便配達』と『初恋のきた道』が続けて上映されるが、繁忙期のためパス)BSやCSでの放映もチェックしていない。それ故に不勉強なところはたくさんある。
 それは中華電影でも然り。そもそも香港映画には90年代中盤からハマったのだから、第2次黄金期であるTVでしか観たことのない成龍作品も、李小龍作品も後から観直して感想を書いてきた。

 今年の東京フィルメックスでは、武侠映画の巨匠と言われたキン・フー(1932-1997)監督の2本の代表作『残酷ドラゴン 血斗龍門の宿』とこの『侠女』のデジタル修復版が上映された。キン・フー監督は1950年代から香港で映画製作に取り組み、60年代には台湾にも活動を広げ、これらの作品で両岸三地に名を轟かせ、第1次香港映画黄金期を築いたと言っても過言ではない、武侠映画のパイオニアとも言える人物。前者は時間の都合で観られなかったものの、後者はタイミングよく映画祭の最終上映作品になったので、それじゃ観に行かなきゃ!と多いに張り切ってチケットを取ったのであった。


なお、今回は『キン・フー武侠電影作法』(キン・フー/山田宏一/宇田川幸洋)を参考としました。この本全体の感想も、年明け以降にアップいたします。


 オリジナルは2部構成で台湾では1970年と71年に連続公開、香港では1本にまとめて公開された188分の大長編。
 東廠や錦衣衛など、この映画この映画でお馴染みの人たちが暗躍する明代が舞台。東廠の宦官に陥れられて処刑された父の敵を討つために武術を身につけた楊慧貞(徐楓)と、彼女にひかれた田舎町の30過ぎの書生顧省斎(石雋)を中心に繰り広げられる壮絶な復讐劇…と一応言えるのだが、3時間全編に渡って激しいアクションが展開するわけではない。
 初めは非常にゆっくりと田舎町の枯れた初冬(多分)の情景を見せ、そこから顧が登場してくる。頭はよさそうなのに科挙にはなかなか合格せず、書画を描いたり手紙の代筆や春聯の作成をする商売をしている顧は母親と2人暮らしで、一族が絶えるから嫁をとれと散々言われるトホホ君。石雋さんといえば、『楽日』で苗天さんと共に台北の映画館で『血斗竜門の宿』を観ていたり、3年前にNHK広島が製作したドキュメンタリードラマ『基町アパート』(リンクは出演されていた中村梅雀さんのblog記事)に出演されたり、『黒衣の刺客』にも出るはず…というか撮影はしたけどカットになったのか、とあれこれ思い出す。武侠映画のスターであるけど、顧はショウブラ作品の主人公のようなマッチョではなく、頭脳を使って楊をサポートするタイプ。彼のようなタイプは女性が主人公となる武侠映画では珍しくないけど、その原型なのかもしれない。
 その彼の村の廃寺に住み着いたのが楊。徐楓さんが演じる彼女は登場時からキリッとした表情を見せ、あまり表情を崩すことがない。彼女はデビュー2作目でこの作品の主演を果たしているのだけど、もともとアクション女優ではなかったというのが意外。デビューしたてでキャリアの浅さをカバーするためにセリフをあえて少なくしたとも聞くけど、新人であることを感じさせないアクションの凄さには驚かされた。

 そう、この映画について語るのに欠かせないのが、武侠映画の最高傑作ということ。それは本当であって、ここから香港のアクション映画にもつながっていったというのはまさにその通りだと感じた。『グリーン・デスティニー』がオマージュを捧げた(他の映画にも多少あるけど)第1部クライマックスでの竹林での激闘や、楊たちが逃亡中に敵と戦い、慧圓大師(ロイ・チャオ)に助けられる場面、第2部クライマックスの錦衣衛との対決など、見ごたえがある場面は次々と登場する。最初の場面から顧と楊が出会い、彼女たちの周囲に東廠の密偵・歐陽年(田鵬)が現れて暗躍するまでがえらくゆったりしているので、多少戸惑ったりもしたのだけど、物語が戦いへと向かうと一気にシフトチェンジして止まらなくなり、興奮すること限りなしであった。しかし、アクション以外の場面にも力が入っているから、ゆったり…というより、ここまで時間をかけて描いているのかな?とも一方で思った。第2部中盤で顧が立てた作戦で東廠をおびき出して全滅させるというくだりでは、戦いの虚しさまでも描いてしまっていて、普通はこういう描写しないよなーなんて思うところもあったので。
 そして、ついつい楊の強さに気を取られていたので、彼女と顧が一瞬の恋に落ちたのをうっかり見落としてしまい、一緒にはなれないけど彼の子孫を絶やすまいと一緒に寝て、産んだ子供を託したくだりに「えー、ヤッたのかキミたち!」と思わず言っちゃったこと(汗)。予習してなかったのがいけなかったんですね、すみません。

 てなかんじでダラダラ書きそうなのでこのへんで締めますが、先にも書いたようにこの映画が李小龍や成龍やショウブラ作品につながり、後の古装片ブームにもつながり、一代宗師や黒衣の刺客、さらにはるろけんにもつながっていくと思えば、大きなスクリーンで観られたことは嬉しかったし、今後も語り継いでいかれるだろうし、まだ知らない多くの人に観られてほしいと思ったのであった。
 この映画祭で上映された2本のキン・フー作品は、来年1月からの一般公開が決まっているそうで、これをいい機会に、ぜひとも全国津津浦浦で上映されてほしいものです。
 もちろん我が地元でも観たいなあ。せっせとリクエスト出さねば。


英題:A Touch of Zen
監督&脚本:キン・フー 撮影:ホア・ホイイン 音楽:ウー・ダーチアン 武術指導:ハン・インチエ
出演:シュー・フォン シー・チュン バイ・イン ティエン・ポン ハン・インチエ サモ・ハン・キンポー ミャオ・ティエン ロイ・チャオ

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タイペイ・ストーリー(1985/台湾)

 本題に入る前に、まずはこれを言わせて下さい。

祝!『牯嶺街少年殺人事件』日本再上映!

 ワタシ自身も1回しか観ていない4時間版の上映。配給がしっかりしたところなので、地元でも上映してくれるだろうと固く信じてます。

 閑話休題。長年日本再上映が望まれていた代表作がやっと決まった来年は、ヤンちゃんことエドワード・ヤン監督の生誕70年にして、没後10年。昨年は『恐怖分子』がリバイバル上映され、やっと再評価が始まったとホッとしている。
 それに先立つ1年前に、監督第2作として撮りあげた『タイペイ・ストーリー』がデジタル・リマスタリングされてフィルメックスで上映。主演はホウちゃんこと侯孝賢、相手役にヤンちゃんの奥方でもあった歌手の蔡琴さん、脇には柯一正さんに呉念眞さん(蒼蝿師と愚人師…とか今回は言っちゃいけない)と、なんとも豪華な面々が登場。

 米国帰りの阿隆(ホウちゃん)と建築事務所で秘書をしている阿貞(蔡琴)は恋人同士ではあるけど、どことなくそう見えない。時には兄妹のように濃密に見えるときもあれば、他人のようによそよそしく振る舞うこともある。題名の《青梅竹馬》は中国語で幼馴染の意味だけど、お互いを知り尽くし、かなり近い位置にいるから先に進めないでいるもどかしさを表しているみたいだ。
 かつては少年野球のエースだったが、輝かしい過去を思いながら米国行きに期待をかけたい阿隆。仕事を持ち自立していたが、勤めていた会社からリストラされてしまった阿貞。お互いにすれ違い、気持ちは離れていくけど、それでも相手を求めている。


もしかしたらすぐ消えちゃうかもしれないけど、今年の金馬からの動画を。

 上映前のインタビューでホウちゃんは「この映画は決して成功作とはいえない」というようなことを語っていた。脚本家としても参加していたこの映画のために彼は家を抵当に入れて出資したものの、公開期間はたった4日だったそうだ…ああ。まあ、確かに出演しているのは、有名な歌手の蔡琴だけど、ホウちゃんもルンルンパパ(柯一正さん)も念眞さんもあくまでも映画人だから、当時の観客はどう思ったのだろうかな。
 この次の『恐怖分子』で高い評価を得たそうだけど、テーマとしては実はほとんど変わっていない。急激に発展する台北で揺れ動き、一緒にいるのに幸せではない男女の孤独。それはミンリャンの描く孤独とは全く違うタイプのものだと思うけど、ウェットではなくとことんドライなのは、ヤンちゃん自身も一度台湾を出ていて、米国で学んだ影響もあるのかな、などと思ったりする。でも、やはり米国で暮らしてた李安さんとも全く違う個性でもあるし。一度ご本人にお会いして、そのへんを聞いてみたかったな。もう、叶えられないことなんだけど。
 幼馴染ならぬ、同い年だったホウちゃんとも個性は違うのはもちろんのこと。彼は一般的には郷土電影の名手と言われているらしいしね。

 そんなホウちゃんが参加した数少ない出演作というのも見もの。数えてみたら、38歳の頃に撮られていたそうで、あー、今の自分より若いんだホウちゃん、うわーかわいいなー、とか柄にもなく思ってしまった(笑)。若々しくて、髪が長くて、意外にも直情径行なキャラクター。時に暴力的で荒々しく、まだまだ青春の香りを残しているような好演を見せていた。
 蔡琴さんといえばなんといっても、我々にとっては馴染み深いこの歌の人。ワタシもそれ以外の曲は90年代台湾でよく耳にしていたけど、女優としての演技は知らなかったので、興味深く観た。この映画の後ヤンちゃんと恋に落ちて結婚し、ちょうど10年後に離婚したらしい。(その後ヤンちゃんはピアニストと再婚し、彼女も再婚)ルンルンパパも多少今の面影はあるかなとか思いつつ見たし、念眞さんもこの頃は若かったなー。

 まあ、そんなアホなことくらいしかかけてませんが、今はもうない町並みの中でも、後半に登場していた闇に時折照らし出される迪化街の場面には、あれだけ街が変わってしまっても、老街はあまり変わっていないことに、なんとも言えない不思議な気持ちになったのでした。
 また繰り返すけど、ヤンちゃんからはいろいろな話を聞きたかったなあ。
 それはかなわないことだから、他の作品もどんどん再上映してもらって、彼の思いを知りたいよ。

原題:青梅竹馬
監督&脚本:エドワード・ヤン 脚本:ホウ・シャオシェン&ジュー・ティエンウェン
出演:ホウ・シャオシェン ツァイ・チン クー・イーシェン ウー・ニエンジェン メイ・ファン ヤン・リーイン

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大樹は風を呼ぶ(2016/香港)

 今年は本当に香港映画を観ていない。そもそも勉強してたのに広東語も聞けてない。なんとなくストレスが溜まってる感がある。そんなわけで、フィルメックスの閉会式で上映される『大樹は風を招く』は楽しみにしていた。

 この映画は11年前から香港で実施されている「鮮浪潮國際短片展」の歴代コンペで受賞した3人の監督を起用し、トーさんとヤウ・ナイホイさんのプロデュースによって撮られた作品。今年の金像奨では、最優秀脚本賞と編集賞を受賞。3人の監督のうち、ジェヴォンズ・アウ(歐文傑)さんは今年の金像奨作品賞受賞作《十年》の一編「方言」を監督。
 1997年、返還直前の香港を舞台に、実在した3人のギャング―季炳雄、葉繼歡、そして張子強をモデルにした、季正雄(カートン)、葉國歡(リッチー)、卓子強(小春)の運命を描いた作品。ユニークなのは、3人の監督がそれぞれ主人公3人のパートを演出していること。


 警官を射殺して大陸に逃亡したが、再び香港に戻っては小規模な犯罪に手を染めている季。強盗事件を起こした後にやはり大陸に逃げたものの、身分を隠して家電製品の密輸に携わる葉。彼らとは対照的に、誘拐と脅迫を繰り返しては派手に暴れている卓。香港と大陸とを行き来するも、出会うことはなかった3人だが、ある日どこからか「あの3人が協力して、何か香港でやらかすらしい」という噂が流れてくる。

 それぞれの事情を抱え、それぞれの思惑を抱いて動く3人。返還も控え、黒社会も落ち着かない。名を残す大物たちも、どこで生き残り、どこで躓くかわからない。主題歌として使われるのが、「時の過ぎゆくままに」の広東語カバー、《讓一切隨風》。香港では阿Bを始め、多くの歌手に歌われている名曲。


 トーさん製作で主人公たちが黒社会の大物とは言え、トーさん色が出ているところはキャスティングくらいだし(林雪もしっかり出てるしね!)、そのへんを期待した人には結構ハズレっぽく思われるかもしれない。現にワタシも劇場で「イマイチだった」という声を聞いたし。
でも、3人のパートをそれぞれ3人の監督が撮ったとはとても思えず、バランスが取れていた。寡黙だけど狂犬のような季、一見してギャングには思えない葉、とにかく派手でうるさい卓と、それぞれのパートを分けても無問題なんだろうけど、あえて分けなかったのだろう。
 3人のうち、一番面白かったのが葉のパートで、堅実に行くかと思いつつ結局腰をあげることになり、そこから香港に戻った時にあるハプニングが起きるわけだが、この時にすでに香港人の大陸へのある種の偏見が見えるようだったし、それがかつて香港を拠点にしていた葉の逆鱗に触れたのもわからなくはない。そして、このパートを演出していたのがジェヴォンズさんと聞いて、そう意図したのもなんとなく納得したものだった。(ネタバレ回避してかなりボカしてますが、まあだいたい想像つきやすいんじゃないかと思って)

 香港返還から来年で20年が経とうとしているが、やはり20年という歳月はいろいろとモノを変える。返還当時に渦巻いたいろいろな感情が今はどうなっているかはこれまた人それぞれだろうけど、政治的な面でここまで変わるとは思えなかった現在なら、返還の頃を振り返るとまたいろいろな感情が沸き起こるのだろう、と少し真面目に思ってしまったのだった。 

 とかなんとか言ってますけど、面白かったですよ。ユーモアも効いていたし、カートンもリッチーも小春も渋くてカッコええし、広東語もガンガン聞けて嬉しかったし。
 後はね、題名にある通り、風の使い方が印象的だった。屋上に干した洗濯物をゆっくり揺らしたり、人影が写ったりとよくある演出なんだけど、こういうベタさ(と言い切っていいのか?)がうまく効いているのがやっぱり映画だよなって思うからね。

原題&英題:樹大招風(Trivisa)
製作:ジョニー・トー&ヤウ・ナイホイ 監督:フランク・ホイ&ジェヴォンズ・アウ&ヴィッキー・ウォン
出演:ラム・カートン リッチー・レン チャン・シウチョン(ジョーダン・チャン) ラム・シュー フィリップ・キョン ユエ・ワー ヴィンセント・イン ン・チーホン ホン・ヤンヤン 

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私の少女時代(2015/台湾)

 ここ15年ほど、台湾映画の代名詞は青春映画のようになっている。このblogで真っ先に感想を書いた『藍色夏恋』がまさにそうであるけど、その青春路線で一番稼いだのが『あの頃、君を追いかけた』ってことは言うまでもない。台湾だけでなく香港でも公開時に大ヒットし、今年『寒戦2』に抜かれるまで、香港公開の華語電影歴代興収1位の座に君臨していたわけだしね。

 で、昨年公開され、これまた台湾では大ヒットした『私の少女時代』も例に漏れず青春映画。監督は日本でも放映された多くの華流ドラマを手がけてきたフランキー・チェン(注:女性です)で、我らが大プロデューサーにしてスアーパースター(このネタいつまで通じるんだろう?)アンディ・ラウ先生が製作総指揮に名前を連ねている。その理由は後述。


 一流企業で働くお疲れ気味のアラフォー(ジョー・チェン)が振り返る、林真心(ヴィヴィアン・ソン)の女子高生時代は90年代前半。ボサボサ髪で冴えない真心が、学校一の不良で転校生の徐太宇(ダレン・ワン)と出会ったことから始まる、いかにーも少女マンガ的なスクールデイズ。真心がほのかな想いを寄せる学校一の優等生歐陽非凡(この名前どうよ!ディノ・リー)、真心のご近所で学校のマドンナ陶敏敏(デヴィ・チェン)、男勝りとふくよかちゃんという真心の親友2人など、これまたいかにもーなキャラが揃っている。学校一の嫌われ者太宇のパシリにされたり、敏敏に思いを寄せる太宇のために奔走したり、そしてやっと非凡に心が通じたかと思えば、自分のほんとうの思いを自覚してしまう真心など、もうものすごくベタで甘々で一体いつの時代の少女マンガだよ!とツッコミを入れずにはいられない。

日本初上映は今年の大阪アジアン映画祭だけど、配給会社が仙台で実施したこの映画祭で初見。

 しかし、このもろに少女マンガな演出はおそらく計算されたもの。監督の実体験も多分に含まれていて、しかも彼女と同じアラフォー女子なら思わず頷いてしまったり、懐かしさを呼び起こすような仕掛けがあちこちに施されていて、彼女たちより少し年長で、なおかつ90年代初頭に台湾にいた自分としては思わずにやりとしてしまった。
 特に芸能ネタに懐かしさを覚えた人は、香港映画&芸能好きなら少なくないはず。真心はアンディ先生と星仔の大ファンで、親友はアーロンと金城くんの大ファン。真心と太宇たちが遊びに繰り出すとき、流れるのは当時バリバリのアイドルだったグラスホッパーのこの曲。

 当時の香港芸能にハマった人なら、他にもニヤリとさせられるネタはたくさんあるらしいけど、ワタシにわかったのはこれくらい。そして、こういう素地があるからこそ、日本の少女マンガを原作に台湾に舞台を移した『流星花園』シリーズを始めとした華流ドラマの成功があるのだな、と思いっきり納得した。ほとんどのあらほー台湾女子が、こんな少女時代を過ごしていたのかなあ。

 まあ、少女マンガ的展開と書いたけど、それはいい意味でもあり悪い意味でもある。そんな点で引っかかりがある人もいそうだし、実際ワタシもものすごいムカつく不良として登場した太宇は実は…な設定があまりにもご都合っぽく感じてちょっとなって思ったりしたんだけど、まあそこまでひねっていたのもご愛嬌と思えばいいか(苦笑)。

 この映画を語る際には、どうしても『あの頃』を引き合いに出されてしまうし、二番煎じと言われちゃうのもわからなくはないけど、シモネタと妄想が前編を引っ張ったあの頃に対して、あえて女子の現実ではなく夢見る時代をそのまま映像にした潔さがこの映画の強みである。けして同じではないし、せめて映画の中だけでは夢を実現させてもいいよね?という目配せも感じられる。青春映画に厳しい態度をとっても、たまにはその目配せを尊重しないと、ね。それがあるから、少女時代の予想外の顛末から、現代に戻ってアンディの台北コンサートで起こるラストのミラクルが効いてくるのだろうから…。
 とか言いつつも、あの流れにはもう爆笑するしかなかったぞ。どうしてくれる(こらこら)



なお、この映画には単館系映画には珍しく日本語吹替版も作られております。
声優さんファンが多く観に来ているとのことです。それを受けたかどうかわからないけど、上の画像は映画祭で見かけたアニメ風アレンジポスター。でもごめんなさい、これを最初に見て思ったのは、今年めっちゃ流行ったあのアニメからのインスパイア?ってことでした。すいませんすいません本当にすいません。

原題&英題:我的少女時代(Our Times)
監督:フランキー・チェン 製作:イエ・ルーフェン 製作総指揮:アンディ・ラウ
出演:ヴィヴィアン・ソン ダレン・ワン ディノ・リー デヴィ・チェン ジェリー・イェン アンディ・ラウ

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見習い(2016/シンガポール・ドイツ・フランス・香港・カタール)

 映画祭の醍醐味は、世界の映画がたくさん観られること。ゆえに、アジア映画を多く紹介してくれるTIFFやフィルメックスの存在は本当にありがたい。
 さらに、ここ数年の世界の映画祭ではフィリピン映画が連続して受賞し、それに伴って東南アジア各地の映画が注目を集めているとのこと。今年のTIFFでも、コンペで観客賞と主演男優賞のダブル受賞となったのが、フィリピンの『ダイ・ビューティフル』だった。

  この『見習い』は今年のカンヌの「ある視点」部門にシンガポールから出品された作品。シンガポール映画といって思い出すのは、この作品で製作総指揮を手がけている『TATSUMI』のエリック・クー監督や、カンヌでカメラ・ドールを受賞した『イロイロ ぬくもりの記憶』など。だけど残念ながら両作とも観る機会に恵まれなかったので、これが初シンガポール映画となった。
 クー監督、イロイロのアンソニー・チェン監督、そして本作の監督のブー・ユンファン監督も名前からしていずれも華人なのだが、はたしてシンガポールは中華圏なのだろうか?と一瞬思った。しかし、そういうわけでもないらしい、とこの映画を観終えた後に思った。
 と言いつつも、この映画を観ようと思った一番の要因は、クー監督と共に我らがパンちゃんことパン・ホーチョンが製作総指揮に加わっていたからなのである。
すいませんそんな理由で本当にすんません。

 日本と同じく死刑制度を持つシンガポール。刑務官になった若いアイマンは、ベテラン死刑執行人ラヒムの元で執行人見習いとして働くことになる。アイマンの父は殺人を犯して死刑に処されたが、彼はラヒムが父を処刑していたことを知る。

 アイマンとラヒムはマレー系だが、彼らの同僚の刑務官や死刑囚には華人もいる。シンガポールには他にもインド系も多く住むということだが、華人がマジョリティであることを知ると主人公二人はマイノリティに位置するということか。このへんは監督も初映時のQ&Aで語ったようなのでそちらに譲るけど、映画の中盤で白人のBFと結婚してオーストラリア(だと思ったが)に移住するアイマンのお姉さんのエピソードもあるので、シンガポールがただ華人の多い国というわけではなく、多民族国家であることが明確にわかるように描かれていたのが興味深かった。

 世界的には制度廃止の方向に向かっている死刑だが、日本にももちろん死刑制度はある。そういう背景もあるので、いかに刑が執行されるのかという点でも興味深く観たけど、カンヌで上映されたときにはおそらく観客は衝撃を受けたかもしれないし、批判もあったんじゃないかと思う。現在の日本でもこういうタイプの作品は作れなさそうだ。
 もちろん、ブー監督もそのへんはわかっているようで、死刑制度の是非が主題ではなく、これを媒介にした人間関係を描きたかったということで、脚本の作成に3年(その間東京にも滞在したとか)、母国の多くの執行人や死刑囚の家族たちへのインタビューを重ねて作り上げ、若い刑務官からの視点を主にして死刑執行に新たな視点を当てたかったとのこと。

 死刑までの流れは非常に丁寧で複雑なプロセスを要し、それでいてあっさりと執行される。そこの描かれ方がリアルなので見入ってしまうが、父を死刑で失ったアイマンのようなケースはありうるのだろうか?それは映画ならではの面白さではあるのだけど、肉親を殺された者と殺した者が偶然にも出会ってしまった際の心の乱れは、どんな人間においても共通するものがあるのだなと思った。



 当日のQ&Aでは当然クー監督やパンちゃんとの関わりが質問で出たけど、クー監督はブー監督の長編第1作に引き続いてのプロデュースで、パンちゃんには脚本を読んでもらって資金面でのプロデュースを買って出てもらったそうだ。両者ともTIFFの常連であり、アジアを股にかけて活躍する映画人。特にパンちゃんは昨年のレイジーに引き続いてのプロデュースであると考えると、中国だけでなく東南アジアにも目に向けたよさと、今後の東南アジア映画の面白さは彼らが陰でサポートして発展していくのだろうな、と改めて思った次第。今年の大阪アジアン映画祭で上映されたマレーシア・シンガポール合作の『ご飯だ!』は、パンちゃんの盟友チャッピーの初監督作品であるしね。

中文題&英題:身後仕(Apprentice)
監督&脚本:ブー・ユンファン(巫俊鋒) 製作総指揮:エリック・クー パン・ホーチョン
出演:フィル・ラフマン ワン・ハナフィ・スー マストゥラ・アフマド

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ゴッドスピード(2016/台湾)

 旅立つ時に言われる「一路順風」という中国語の訳は、だいたいBon Voyageというフランス語を充てられることが多いのだが、この映画の英題は、その古い英語表現を使った「Godspeed」。
 3年前の『失魂』以来のTIFF登場となる鐘孟宏監督の新作『ゴッドスピード』は、説明不要のMr.Boo、許兄弟の長男マイケルさんを主演に迎えたことが公開前から話題になっていて、11月の台湾一般上映に先駆けたTIFF上映では、その話題性もあってかチケットも早々とソールドアウト。

 この作品でマイケルさんは香港から台湾に移住したタクシー運転手を演じ、兄貴の大寶(レオン・ダイ)に頼まれて麻薬を台南まで運ぶチンピラ(演じるは台湾のコメディアン納豆。ちなみに日本の納豆は食べられないとのこと)を乗せたことで、思わぬ事態に巻き込まれるというコメディ…のはずなのだが、前作の強烈な印象もあってか、なんとも言えぬ不思議な感覚を持つ、一筋縄ではいかない作品に仕上がっていたのであった。


 題名の一路順風は、日本ではよく「道中気をつけて」と訳されていることが多い。
この予告にも出てくるセリフにもあるのだが、冒頭、タイに旅立つ前の大寶が弟分にこう言われたことから、タイでひどい目に遭って帰国したのは「お気をつけて」と言われたからだ、と毒づく場面がある。そんな大寶と取引をするツォン(トゥオ・ツォンホア)ら台湾ヤクザたちが繰り広げる壮絶な修羅場と、途中でうっかり黒社会の葬儀に紛れ込んで大変な目にあったりするも、基本的にどこかのんびりしている許さんと納豆の珍道中とが並列して語られる。その両者はあまりにもトーンが違うのだが、やがてこの二つが交わり、ある意味で衝撃な上でさらに想定外なエンディングを迎える。許さんパートのオフビートな雰囲気にクスクスと笑っていたら、ヤクザパートの中盤に出てくる「タイ式拷問」には開いた口が塞がらなくなったりで、これはただのコメディと言って済ましちゃダメだなーと途中で気づいた。
ダメ押しの驚きはタクシーの旅が終盤に向かおうとする深夜の台南の場面で、カーラジオから流れてくる谷村新司の『昴』。台湾ではテレサ・テンのカヴァーも知られているというこの曲だけど、いきなりオリジナルが聴こえてきたのには驚いた。そう言えばこの歌、唐の高僧鑑真と遣唐使を描いた井上靖の小説『天平の甍』の映画化になんか縁があったんじゃなかったっけ?とググったら、当時はイメージソング的に使われていたらしい。詳細はこちらを。

 上映後のQ&Aによると、モンホンさん曰く「歌詞がままならぬ人生を描いた映画の内容にあっていると思った」からの起用とのことで、この「ままならぬ人生」がテーマであることに気づいたので膝を打ちたくなった(参考として初映時のQ&Aを)。登場人物が全て、思うままにいかぬ人生を抱えて切なく生きている印象を受けたからだ。無表情な納豆、崖っぷちの大寶だけでなく、台北の某小籠包店で奥さん(林美秀!)にやり込められる話なども挿入される許さんも、面白キャラに見えつつもどこかで切なさがある。となると、描き方は違っても、それが人間の持つ性であると思えば、前作とのつながりもどこかで感じられるのかな、などと思った。

 納豆くんはTVのバラエティ番組の司会などを担当しているそうだけど、主役級でシリアスな演技は今回が初めてとのこと。でもモンホン作品にはずっと脇で出演してきたそうだ。
そういえば、リーレンさんことレオン・ダイもツォンホアさんも前作に引き続いての出演。ベテランの常連が脇を固めるモンホン組、というわけだけど、やはり前作にも登場していたあの人、『祝宴!シェフ』の陳玉勳監督は今回はがっつり出演で大笑いしました。
 そんなユーシュンさん、来年旧正月に新作《健忘村》の公開を控えていることを記して、この感想を終わりにします>こらこら、またこういう締め方をするなよ



 左がモンホンさん、右が納豆くんのサイン。

原題:一路順風
監督&脚本:チョン・モンホン 製作:イエ・ルーフェン 撮影:中島長雄 美術:チャオ・スーハオ 音楽:ツォン・スーミン
出演:マイケル・ホイ ナードウ レオン・ダイ トゥオ・ツォンホア チェン・イーウェン チェン・ユーシュン リン・メイシウ

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シェッド・スキン・パパ(2016/香港)

 現在の東京国際映画祭には、コンペティション部門の他、アジアの新人監督を対象に賞が与えられるアジアの未来部門と、同じく日本映画の監督に与えられる日本映画スプラッシュ部門の3つがある。香港映画はだいたいアジアの未来部門でエントリーされるのだが、2011年の『夢遊〜スリープウォーカー』以来のコンペエントリーとなったのが、香港演劇界で活躍する演出家兼俳優ロイ・シートウ(司徒慧焯)監督の『シェッド・スキン・パパ』
 80年代から香港映画の脚本を手がけ、演劇に主軸を移した近年は『恋の紫煙』シリーズや『カンフー・ジャングル』に脇で出ていたそうだけど、全く気づかず(笑)。
そんな彼の俳優として一番説明しやすい役どころは、自ら脚本を手掛けたレスリーの『夜半歌聲』で演じた、ン・シンリンの婚約者役だと思う。ああ、あのキモいボンボンが、こんなに立派になって…とか意味不明に感慨深くなってすいません。

 三谷幸喜の『笑の大学』が上演されたり(近年はエリック・コット&ジャン・ラムのコンビも出演!)秋生さんやカーファイやカリーナ姐さんも舞台に立つなど、香港も演劇が盛んに上演されている。シートウさんは香港話劇團という劇団に所属して現代劇の演出を多く手がけてきているとか。
原作は2005年に発表された佃典彦氏の戯曲「ぬけがら」。翌年に岸田戯曲賞を受賞しています(ちなみに同時受賞したのが、やはり近年映画化された三浦大輔の『愛の渦』)。自らの劇団や外部公演で何度も上演しているそうですが、2年前には話劇團を迎えた日港連続上演も行ったそうです。これは知らなかった…。

 ある日突然若返っていく父親・田一雄(ジャンユー)と、父親と折り合いが悪い40代の映画監督・力行(古天楽)の物語。母親を失い、妻(蔡潔)とは離婚寸前、監督としてもヒット作が出ず、おまけに同居している父は認知症といろいろ崖っぷちに立たされている。そんな中に父は脱皮して10歳ずつ若返り、死んだ母もなぜか若い姿(春夏)で現れるようになる。

 このお父さんの若返り方が面白い。時に喧嘩っ早かったり、陽気な女ったらしだったり。しまいには母親と知り合った10代(もちろんジャンユーが自ら演じてる!)まで様々な姿を見せてくれる。それぞれの姿には、戦後間もなく移住した大陸からの移民であろう彼の背負ってきた社会が見える設定がなされていて興味深い。香港と大陸との微妙な関係とその変化もやや皮肉っぽく描かれているところもあって、そんなところにはニヤリ( ̄ー ̄)。
 そんな父の姿に戸惑い、生活を引っ掻き回されながら過ごす力行だけど、自分と同世代になってもやっぱり折り合いが悪いというのはなんともはやって感じでさらに苦笑い。でもまあ、そうやって親子はぶつかりあいながらもわかり合っていくもんであるわけだし。 



 舞台では各年代の父親を複数の俳優が演じているそうだけど、これは映像マジックが使える映画なので、80代から10代までを一人で演じるジャンユー無双が見られる。20代までは許容範囲だろうけど、まさか10代までやってくれるとは思わなかったし、それがとってもかわいい。それゆえ、各世代のぬけがらが生命を持ち、若い母親と力行と共に家族で食卓を囲む場面はやっぱり圧巻。一見シュールではあるけど、ファンタジーとして作られているので、可愛らしさとともに父親の人生と共に生活をする喜びにも溢れているようにも見えるのがよかった。

 後は使われている小道具や、全編に渡って見える飛行のモチーフも興味深い。映画監督らしく、力行のアパートの入り口には映画のポスターが貼られているのだが、それが『自転車泥棒』と『ゴッドファーザー』と『野良犬』(ちなみにアキラ黒澤はシートウさんが敬愛する監督だそうだ。Q&Aを参考のこと)で、どこか映画の内容ともリンクするところがあったり、少年時代(ちなみに演じているのはジャンユーのリアル息子ちゃん・ファインマンくん)から力行が好きだったのがガンダムで、その広東語版主題歌を「♪飛飛飛、飛飛飛、飛飛飛~」と歌ってしまうところ、そして挿入歌として使われる「虹の彼方に」。それぞれ意味があり、なおかつかわいらしい。素直にテーマが伝わる、愛らしい映画でした。

 残念ながらコンペでは入賞しなかったけど(今年は作品のレベルが高いとも言われてたしなあ)、プログラミングディレクターの谷田部吉彦さんがかなり力を入れて紹介されていたり、ジャンユー&古天楽の来日等もあって盛り上がったのが何より。久々に日本との結びつきがある香港映画というのもまたいいところ。
 香港ではこれから公開とのことで、どのように注目を集めるかも楽しみ。今後シートウさんはまた演劇の方に戻るとのことだけど、また映画を撮ってもらいたいな。日本でも演劇と映画の両方をこなす演出家も少なくないので、香港ローカルな視点を持った演劇と映画の両者に関わっていただけると香港映画ファンとしてはとっても嬉しいのでした。

原題:脱皮爸爸
監督&脚本:ロイ・シートウ 原作&脚本:佃 典彦 音楽:レオン・コー 音響:トゥー・ドゥーチー
出演:ン・ジャンユー(フランシス・ン) ルイス・クー ジェシー・リー ジャッキー・チョイ クリスタル・ティン

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